chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

「OneShot」で、あなたのNiko君と世界を旅してほしい。

突然なのだけれども、みなさんにはこの「OneShot」というゲームをプレイしていただきたい。

store.steampowered.com

OneShotは、このかわいいかわいいNiko君を操作して、世界を旅するパズルRPGである。
そして、できることなら、これ以上の情報を一切頭に入れずに(steamのレビューさえ見ずに!)体験してほしいゲームだ。
特に、このストアページに表示されているNiko君のビジュアルや世界観が気に入ったなら、それだけで十二分にプレイする価値がある。このかわいいかわいいNiko君はきっと、あなたにとって特別な存在になるはずだ。

 

それでもまだプレイする気のないあなたに、OneShotの魅力をお伝えしよう

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まずなんたってNiko君がかわいいのである

 

このゲームの何よりも素晴らしい点は、ええっと、一番なによりも素晴らしいのはNiko君がかわいいことなんだけど、その次くらいに素晴らしい点は、「ゲームとプレイヤーの関係」を非常にうまくゲームに利用しているところだ。


プレイヤーにとってPC(プレイヤーキャラクター)とは何か。逆にPCにとってプレイヤーとは何か。プレイヤーはゲーム世界をどう捉えているか。それはPC、またはNPCの捉え方とどう異なるか。そういったプレイヤーの価値観が、ゲーム体験を通じてどのように変容するか。その関係性をうまく利用し、ときにはゲームの側からその関係を揺さぶってくるのだ。

 

大抵のゲーム、特にRPGにおいて、プレイヤーとPCの関係というのは意図的に、あるいは仕方なく曖昧にされている。

 

例えば重厚なストーリーのJRPGをプレイするあなたは、間違いなく自分ではない、確固たるパーソナリティや名前を持ったPCを操作しながら、自分自身がどこか蚊帳の外にいるような感覚を覚える。
逆に、無個性で感情移入しやすい「あなた自身としてのPC」を操作しているときのあなたは、「自分自身が行いたいこと」が「ゲームのお約束」で出来ないようなとき(例えば、たかが木一本で遮られているだけの道が通れない、とか、あのシーンでエアリスを突き飛ばせない、とか)に、自身がゲームの外側にいることを自覚させられてしまう。

 

OneShotでは、ちょっとした舞台設定の妙と、それを存分に活かす様々なギミックによって、「ゲーム世界に『あなた』を存在させながら、ゲームへの没入感を損なわない」ことに成功しているのだ。

 

この仕組みについて、OneShotのネタバレを避けながら説明するために、なるべく様子の異なるゲームを例に挙げよう。「Ingress」である。

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ポケモンGOの会社がやってるアレだ

 

Ingressのプレイヤーキャラクターは、間違いなく「あなた自身」だ。
Ingressの世界は現実世界にオーバーレイするように広がっていて、プレイヤーは実際に現実世界を歩き回ってゲームを行う。
Ingressの世界にはXMという作品世界の根幹をなす物質や、それに関する魅力的なアイテムや設備、研究機関や陰謀、それに関わる人々など、綿密に設定された世界が無限に広がっている。
ただし、「あなた」はそういった世界に「スキャナー(アプリのこと)」を通じてしかアクセスできない。

 

こういったかたちの舞台設定は、プレイヤーをゲームに没入させながら、プレイヤーがぶつかるゲーム的なお約束について、「それはあくまでも、あなたが世界と接するインターフェースの問題だ」というふうに、ゲームの内側から説明を与えてくれる。
Ingressの世界がところどころいかにもゲームっぽいのはあくまでも持っているスキャナーの問題で、本当はもっとシリアスなのだ、と説明できるために、ゲーム世界そのものについては余計なフィクション性を感じさせずに済むというわけだ。

 

OneShotにおいても、「あなた」と「ゲーム世界」の間には隔たりがあることがゲーム内部の言葉で説明される。しかし、これによってプレイヤーは逆説的に「このウィンドウの中には、確かに世界が在る」という感覚を強固にし、またOneShotはその枠組みをフルに使って、ちょっと他では思い当たらないゲーム体験をプレイヤーにもたらしてくれる。

 

OneShotをプレイするあなたは「あなた自身」にかなり近い存在として、Niko君、つまり、あの猫耳猫目で萌え袖で褐色の超絶かわいい少年であるところのNiko君と、さまざまな形で協力しながら謎を解いていく。それによってあなたは、いや「あなた自身」は、Niko君との間に、テキストで描写される以上の特別な関係性を感じることだろう。これがOneShotの大きな魅力だ。

 


さて、一つ伝え忘れたこととして、このゲームは全編英語で、有志による日本語パッチも存在しない。

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伝え足りないこととして、Niko君はかわいい


しかし、ここまでで興味を持ってくれたのであれば、その障害を乗り越えてでもプレイする価値があると保障しよう。
最近はGoogle翻訳も優秀になってきた(カメラで撮影するだけで翻訳できるのだ!)し、どうしてもわからなければ、和訳をまとめてくれているページもある。


(あなたがスケベ心でプレイ前にネタバレを踏まないようあえてリンクしないが、「Oneshot 適当和訳」で検索すれば出てくるはずだ)


最後にもう一度Steamへのリンクを貼るので、あなたがもし、少しでもこのゲームに興味を持っているのであれば、もうつべこべ言わずポチってしまうことだ。

store.steampowered.com

 

プレイにあたって諸注意

最後に、OneShotoをプレイするにあたっての諸注意を以下に記す。
ゲームのダウンロードが完了したら、SteamのPlayボタンをクリックする前に、ほんの一呼吸おいて内容を確認してほしい。手間をとらせる代わりに、よりよいゲーム体験を保証しよう。

 

・初回プレイは、3時間くらいまとまった時間が取れるときに行うべきだ。絶対に。
・上で紹介した和訳は「ゲームが一区切りついたときに、そこまでのプレイを振り返る」ような形での使用をオススメする。かのサイトはデータベース的なものであって構成がストーリー進行に沿っていないので、思わぬネタバレを踏む可能性が高い。
・PCのユーザー名に全角文字を使っていると序盤で若干バグるので、特別事情がなければこの機会に変えてしまおう。なおそのままでも一応ほぼ支障なくプレイはできる。
・フルスクリーンではなくウインドウモードでのプレイを推奨、なのだけれど、画面があんまりにも暗い序盤や、高解像度ディスプレイを使っている場合などは適宜使い分けを。ただ繰り返す通り、原則ウインドウモード推奨である。
・ゲーム中頻出する"phosphor"という語はここでは「燐光体・蛍光体」の意で、世界観の根幹をなす要素になっている。読解の参考まで。

2000円の3Dペンを買って二歳児に戻った話

アキバのヨドバシで、知らないおもちゃを見つけた。

売り場で一目見た途端、その場から動けなくなって、舐めるようにスペックを見て、でも買ってはならないような気がして、一度冷静になるためにトイレに入って、用を足したら一直線に売り場に戻ってまた箱を食い入るように見た。大の大人が、たかが2000円のおもちゃを前にしてだ。

今回は、そうやって買ったおもちゃが滅茶苦茶楽しかったというだけの話をします。

 

3Dドリームアーツペン

そのおもちゃは、3Dドリームアーツペンという。

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3Dドリームアーツペン|商品情報|メガトイ|メガハウスのおもちゃ情報サイト

樹脂で平面に絵を描いてからライトでじっくり硬化させて、そうして作ったパーツを立体に組み上げる、という遊び方をするものらしいのだが、ペン先に別売りのライトを付けることで、描いた先から樹脂を硬化させて「空中に絵を描く」ような使い方ができる。

 

一目見たときに「やべえぞこれは」と思った。3Dプリンターが市場に出回り始めたころに流行った「3Dペン」そのものだ。

 

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空中に絵を描ける世界初の3Dペン 「3Doodler」公式サイト|ナカバヤシ株式会社

このサイトの3Doodlerは14000円、ヨドバシで見つけた3Dドリームアーツペンはペン一本とライト一つで2000円程度。圧倒的に安い。

しかも売り場には、

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こんな作例まで展示されているのだ。

これは凄い、最近の子供はこんなハイテク玩具で遊んでるのか、欲しいな、2000円だし買うか、と、そこまで思いを巡らせたところで、ふと「ここは一旦冷静にならなければ」と思い、あわててトイレに逃げ込んだ。

 

たかが2000円の衝動買いで何を大袈裟な、とお思いだろうが、その理由を説明する前に、ちょっと身の上話をさせて頂きたい。

 

 

クリエイティブなおもちゃは怖い

chocoxinaの最近の悩みとして「老い」が怖い。

たかだか20代の若造が何を、と人生の諸先輩方は笑うかも知れないが、これは、かつては出来たことが少しずつできなくなり、かつてはきいた無茶がだんだんときかなくなってくる、という現実に人生で初めて直面した自分の素朴な本音である。

 

その中でも特に怖いのが、自分の中から「創造性」みたいなものが無くなっていくことだ。

10代の頃は、やりたい事や作りたいものがいくらでもあった気がするのに、最近はまったくそういったモチベーションが湧いてこない。

 

今もし、無数のレゴブロックが目の前に積み上げられているとして、そのブロックで何を作るか? 時々そう自問して、その度にため息をつく。作りたいものが何も思い浮かばないのだ。

 

そんなわけで、3Dドリームアーツペンを買うのが怖くなった。

アイツは「さあ、何でもすきなものを作ってごらん!」と我々を迎えてくれるようでいて、その実「いったい俺で何を作ってくれるんだ?」と創造力を試してくる。

もし、アイツを買って何も作れなかったら。考えるだに恐ろしかった。想像の中の「レゴブロックの山の前で立ち尽くす自分」が現実のものになって、老いた自分と真正面から向き合うことになるからだ。

 

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老いを恐れるchocoxina(イメージ)

 

やはり買うのはやめようか、と思いながらトイレから出て、やはり最後にもう一目だけ見ようと売り場に戻ってみたが、そのおもちゃは変わらず魅力的だった。

何を作るかはともかく、このペンで空中に線を引いて、出来上がったものを触ってみたい、と思った。こんなに何かが欲しくなるのは数年ぶりだった。

頭の中で発展性のない問答を繰り返して、最終的に、最低限のセット(ペン一本とライト一つ)だけを買って帰った。

 

長々としみったれた話をしましたが、以下たのしいおもちゃレポートになります。

 

 

こういうおもちゃです

さて、このペンとライト。

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画像右のペン本体は修正液のようなタイプで、蓋を兼ねたペン先を少し緩めてから本体の膨らんだ部分を押すと、ニュルニュルとインクが出てくる。ここの押し加減で出てくるスピードを調整するようなイメージだ。

そこに画面左のライトをはめると、このようになる。

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LEDが3つペン先に向けられており、ペン先から出たインクをただちに硬化させるようになっているのだ。

ちなみにこのライト、ONにするといかにも「紫外線とか含んでます」的な青くて強い光を放つ。

テーブルに跳ね返った光でさえ、凝視すると目の奥にズン、と来るような感じがあり、多分あまり目にいいものではないだろう。注意書きにも「長時間作業しないように」とある。

 

ともかく、こうして完成したものを見てみると、笑っちゃうくらい単純である。

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ダライアスに出てきそう

 

普通の3Dペンなら、大仰なペン本体の尻から長いフィラメントを挿し入れ、ACアダプタもつなぎ、スイッチを押して本体内の複雑な機構で送り出し、先端でヤケドしそうなくらい加熱してやっと樹脂が出て来るというのに、こちらは「絞り出してから、光を当てる」だけだ。

こんなんで空中に絵を描こうというのか。このあと半信半疑で線を引いてみたわけだが、これがもう、すごかったのだ。

 

線を引くと、線が引ける

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その辺にあったマカダミアナッツチョコの箱に、柔らかいままの樹脂で土台(チョコの左上のとこ)を作ってから、ライトを点けた本体を強めに握って、土台を起点に真上にすっ、と引く。

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!!

 

このときchocoxinaが受けた衝撃、画像で伝わっただろうか。

いや、伝わるものか。

 

読者の皆様には「チンアナゴの霊」みたいなものがマカダミアナッツチョコの箱の上に立っている画像しか見えていないだろうが、これは、俺が、たしかに、空中で、引いた、線なんですよ。

 

 

伝われ、この感動

ペンを握り込むと、ペン先にインクが滲む。

滲んだインクはただちに硬化してもとの場所にとどまり、動かされたペンは硬化した樹脂から離れていく。

硬化した樹脂とペン先の間には新たににじみ出てきたインクがつながっていて、それもまた直ちに固まる。

このサイクルが目にも留まらぬスパンで繰り返され、インクの排出(握り込む強さ)と動かす手の速さが釣り合ったとき、そこには「空中に線を引いている」というひとつながりの知覚が生じるのだ。

 

すっ、とペンを動かすと、何もない空間にすっ、と白い線が生じる。これだけのことがただ楽しい。

 

そこからはもう猿のように線を引いた。

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たまたま部屋に落ちていた安全ピンをおさかなさんにしてみたり

 

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なんとなく描いた三角形をなんとなくどんどん繋げて、何らかの構造を作ってみたり

 

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なんとなく思い浮かべた文字(しもネタ)を空中に書いてみたり

 

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もはやなにか計画するのもまどろっこしくなって、思いつくままに線を引いたりした。

 

この楽しさをどうにか人に伝わるように説明するなら「ものすごくレスポンスのいいペンタブを触ったとき」の感動が近いだろうか。しかもそれが三次元に描けて、後には触れられるものがその場に残るというオマケまである。

 

また、自分が滅茶苦茶に線を引きながら想像したのは「初めてクレヨンを握った幼児」の気持ちだ。

 

握り心地のいいカラフルな棒を紙に押さえつけて、ぐいっと動かすと、紙の上に鮮やかな線があらわれる。

きっと幼い我々はそれだけのことが楽しくて、ただ画用紙を真っ赤に塗りつぶしたり、床や壁に色とりどりの素敵な線を生じさせたりしたのだろう。

3Dドリームアーツペンを握ったchocoxinaの気持ちは完全にそれだった。だって、線を引くと、線が引けるのだ!

 

 

クリエイティブはこわくなかった

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改めておさかなさん。どう見ても二歳児の所業だが、27歳児の作である。

 

この玩具を購入する前の自分は「これを使って、なにか意味のあるものを作れなかったらどうしよう」と思い悩んでいた。

それが今や、無限のポテンシャルを持つおもちゃでわざわざなんの意味もない線を引いて喜んでいるし、そのことに関してなんの負い目もない。

 

子供がレゴブロックを手に取るときだって、今のchocoxinaと同じような気持ちだろう。

色とりどりのブロックをぱちん、と嵌めると、ブロックは嵌めたとおりの形を保ち、そのことがただ楽しい。そうやって気の赴くままにブロックを組み上げるうちに、そのカタマリが家や車や動物やモンスターに見えてきて、イメージ通りに組み上げたいという欲求が湧いてくる。

購入前のchocoxinaの「何を作るか思いつかないから、買わない」という考えは、そもそも順序が逆だったのだ。

 

3Dドリームアーツペンはchocoxinaを二歳児に戻してくれた。

ペン先がつまりやすいとか、固まってないインクが手につくとやたらベタベタするとか、欠点も少なくないおもちゃだが、これからも折に触れて触るだろうと思う。

触っているうちになにか作りたいものが思い浮かんでも、なにも思い浮かばなくても、大した問題ではないわけだし。

高収入ミュージック・シーン雑感 Tokyo2016下半期

高収入ミュージックとは

繁華街を歩いていると、どこからともなくダンサブルな音楽が大音量で流れてきて、自然と身体でリズムをとってしまった経験はないだろうか。

それはときに、女性向け高収入求人サイトの広告トラックが流すものであったり、さまざまな店の店頭で流れているものだったりする。

今回はそんな音楽たちを「高収入ミュージック」と名付け、代表的なナンバー(タイトルに反してリリース年月日を限定しない)を紹介していきたい。

きっと誰しも、ほとんどの曲を耳にしたことがあるだろう。


Vanilla


【中毒注意】求人情報サイト バニラ 【テーマソング】

 


求人バニラの宣伝トラックから流れるBGMが歌詞が変わって新曲になった?


高収入ミュージックを語るうえで、外すことができないのがこのナンバーである。
東京、大阪、名古屋――昼間の繁華街を歩いたことのある人なら、誰しもこのトラック※1

「バーニラ♪バニラ♪バーニラ求人♪」

というフレーズを耳にしたことがあるはずだ。
飲み会のコールのようにサイトの名前を連呼する華やかな女性ボーカルと、アッパーなテンポの四つ打ち※2
そのすべてがリスナーのテンションを否応なくアゲにかかり、広告トラックの周りは一瞬にしてチャラ箱※3と化す。
またこの楽曲は、年を経るごとに歌詞やアレンジが少しずつアップデートされているらしい。
現在の地位にあぐらをかかない、王者の貪欲な挑戦心が垣間見える。

 

※1:楽曲の意。「ナンバー」との使い分けはほぼニュアンスである。

※2:バスドラムが一定のリズム(1小節に四つ)で鳴るタイプの音楽や、そのリズムのこと。

※3:クラブ(ディスコ的な店)のうち、かかる曲や客層がチャラい場所のこと。

 

まるきゅーも


まるきゅ~も@歌舞伎町


Vanillaと並んで高収入ミュージック界を代表するトラックがこのまるきゅ~もだろう。
数年前は、後で紹介するmanbooのようなサンバ的な雰囲気のオリジナル楽曲を使用していたまるきゅ~もだが、近年はこの動画のようにクシコス・ポストの替え歌を使用している。
運動会でおなじみの軽快な楽曲をさらに高速にアレンジしたこのチューン※1は、Vanillaとは違ったベクトルでリスナーをアゲることに成功している。
都会の喧騒を速足で駆け抜けるうちに、いつしかその足取りがリズムに乗ってしまうような魅力を持ったナンバーだ。


また、まるきゅ~もといえば、広告トラックや看板で「ジャケ」を上下逆に設置する独特のスタイルが印象的だ。
道行く人がみな「あれはなんだ?」と思い、ある人はシェアし、またある人はGoogle検索する。
プロデューサーの抜かりない広告戦略が光る。

 

※1:楽曲の意。少なくともchocoxinaは完全にニュアンスで使い分けている。

 

15navi

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※こちらの楽曲はぜひ現場で体感してほしい(いい動画が見つからなかったので)


近頃高収入ミュージック界で存在感を増しているのが15naviだ。

「いっちごっなっびっ♪(バイバイトっ♪)」
と、過去に例のない程露骨にフェミニンに寄せた歌声と、これまでのアッパーなトラックたちとはかけ離れたポップな曲調。
この「かわいらしくもアガらない」曲は、これまでの高収入ミュージックとは違うリスナーにリーチしただけでなく、彼らの主戦場であるストリートにおいて我々の思いもよらない効果を発揮する。


これまでの「アガる」高収入ミュージックたちは、曲のビート感を重視するため、楽曲の多くの部分が「低音」で構成されるのだが、低音というのはほかの音にかき消されやすい。
一方15naviの曲はその多くの要素が「人間の声」に近い周波数で構成されており、都会の喧騒の中では抜群の聞き取りやすさと、それによる音量感をもたらす。
町中で15naviのトラックを見かけた際には、ぜひそのサウンドの圧を感じてほしい。
あの広告トラックが通るたび、オーディエンスの耳はジャックされ、世界はイチゴ色に染まる。
15naviは間違いなく今後のシーンをけん引する存在となるだろう。

 

 

manboo


マンガ喫茶「マンボー」の歌


さて、ここからは求人サイト以外のアーティストによるトラック、通称「店舗系」のナンバーを紹介していく。
女性専用マンガ喫茶という特殊な業態を広告するために作られたこのナンバーは、店舗系に共通する特徴として
「求人系」と比較してよりメッセージフルでボリューミーな歌詞をもつ。
「楽しさも抜群♪居心地も抜群♪日本一マンガ喫茶♪女性専用マンガ喫茶♪」
リズムに合わせて口ずさむうち、男性である筆者が今後入ることのないmanbooについて、自然と好印象が刷り込まれていく。
ところで、このmanboo、実は今回紹介する高収入ミュージックの中ではトップクラスのクラシックにあたる。
サンバを彷彿とさせる軽快なリズムに、シンプルな展開、そして底抜けに明るい女性ボーカル。
高収入ミュージックの基本ここにありといった佇まいで、その軽やかな曲調に反し、どっしりとシーンに腰を据える。

 

 

ロボットレストラン


Outside Robot Restaurant in Shinjuku


東京、特に新宿の高収入ミュージックシーンにおいて無視できない存在感を示すロボットレストラン。
巨大ロボットと職業ダンサーが織りなすド派手なパフォーマンスがみられる唯一無二のレストランであるが、そのトラックも相当に個性的だ。
まず印象的なのはトランシーなキック※1とパーカッションが絡み合った複雑なリズム。
曲中にはmanbooを彷彿とさせるメッセージフルなコールのパートもあるが、いわゆるサビにあたる部分はボーカルのトーンがぐっと抑えられ、他の高収入ミュージックと比べて圧倒的にクールな印象を受ける。


また、彼らの路上ギグ※2で見逃せないのは、何よりトラックにけん引された巨大なロボットである。
あれを一目見れば、誰しも「歌舞伎町に何やらヤバいレストランがあるらしい」と強烈に印象付けられる。
すでに新宿の新名物として定着した感のあるロボットレストラン。そのクールなトラックは、高収入ミュージック界のニューウェイブとなるか。

 

※1:バスドラムの意。キックって言ったほうがなんだかかっこいい。

※2:ライブの意。ここでは広告トラックの巡行を指す。そもそもギグって死語らしいですよ?

 


どりーみんパスポート(めいどりーみん)


めいどりーみん 公式ユニット QSCS (くすくす) どりーみんパスポート 【歌詞付 Version】


東京は秋葉原の高収入ミュージックシーンにおいて支配的な再生数を誇るどりーみんパスポート。
これまでに紹介した高収入ミュージックたちとは違い、明確に「男性」をターゲットにしているためか、こちらもなかなか個性的なナンバーに仕上がっている。
そのトラックは、秋葉原のミュージックカルチャーにおいて特徴的な「電波ソング※1」を踏襲したものだ。
高速四つ打ちに疾走感あふれるシンセサイザー、キュートな声のボーカルに、AメロBメロサビというポップス的展開。
特にBメロは俗にPPPH※1と呼ばれる、アイドルソングに特有の「サビ前のタメ」を意識した展開になっている。
日本人の好みに的確にリーチしたご機嫌なチューンは、秋葉原という街の雰囲気を定義づけているといって過言ではないだろう。


また、めいどりーみんといえば、楽曲に合わせて店頭の客引きメイドが軽快にステップを踏む「超条例的パフォーマンス」も見逃せない。
個性的な街の個性的なトラック。高収入ミュージックシーンの幅広さを象徴するような楽曲だ。

 

※1:この辺の用語の定義や用法については、間違ったことを言っているとインターネット的に怖い目に遭うので、薄目で流し見てください。

 

 

ぼったくりイヤイヤ音頭(嘉門達夫 feat新宿区)


嘉門達夫 ぼったくりイヤイヤ音頭 東京青年会議所 新宿区委員会


最後に紹介するこのナンバーは、高収入ミュージックそのものではなく、高収入ミュージックのカウンターストリームとでもいうべき流れに属する。
この記事の序盤に紹介した「求人系」のナンバーが広告する求人サイトは、主に風俗店の求人を多く載せているわけだが、そういった風俗店の一部が行う客引き、キャッチへの注意喚起を行うためのナンバーがこの「ぼったくりイヤイヤ音頭」である。
「客引きキャッチは絶対に♪ついて言っちゃだめよ♪」
否応なく耳になじむ音頭調の旋律に、嘉門達夫の親しみやすい歌声。ほかの高収入ミュージックとはいささか敵対的な出自を持つナンバーであるが、この曲もまたほかの高収入ミュージックと同じように、普段の街歩きにちょっとした彩りを与えてくれる。
音楽的側面に着目しても、曲調こそほかのどの高収入ミュージックとも異なる「音頭」調であるが、音頭というのはそもそも日本人のソウルに深く根差したダンスミュージックであり、そういった意味では他のアッパーな高収入ミュージックたちと共通したソウルを持つといえる。
音楽に貴賤なし。それぞれの背景を乗り越え、ほかのアーティストたちと手を取り合ってシーンを盛り上げてくれる未来に期待したい。

 

 

最後に

いかがだっただろうか。それぞれがリスナーの耳に残るように工夫され、実際に一度聴いたらなかなか忘れられない魅力を持ちながら、路上での広告という性質上なかなか顧みられることのなかった高収入ミュージック。

リスナーの皆様も、街を歩いていて高収入ミュージックの旋律に気づいたときは、ぜひ少しだけ耳を傾けていただき、youtubeの録音ではわからない、パワフルな低音の響きや、楽曲全体からみなぎるテンションなどを感じてほしい。

あと、業界の偉い人はchocoxinaに生の音声データを売ってほしいです。