chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

【落ちのない話】戦略的フレンドリーさ

午前零時すぎ、毎晩飲んでいるヤクルトを切らしているのに気が付いて、雨のなか近所のドン・キホーテまで歩いた。

最少の歩数で10本パックのヤクルトを手に取ってレジに向かうと、レジ係のいつもの女性がなにやら無線でバックヤードと話し込んでいた。

他のレジをあたろうかと思い、周りを見渡したのだが、この時間ともなると他のどのレジも開いておらず、chocoxinaはしばらく待たされる恰好になった。

およそ20秒ほど、ほかを探すともなく待つともなくレジの1メートル手前でまごついていると、ようやく通信を終えた彼女がレジに通してくれた。

ヤクルトの入ったレジ袋とお釣りを順番に俺に寄越して、彼女は最後に「雨が強くなってるみたいだから、気を付けてね」と言った。

 
それを聞いたchocoxinaは内心驚愕した。
なんてスムースなリカバーなのかと。  
 

chocoxinaはこのドンキに毎日のように通っているし、レジの女性にも毎日のように会っている。このような声をかけられた経験が今まで全くなかったわけではないが、都合5年近く通い続けてそのようなことがあったのは片手で数えられる程度だ。

彼女はおそらく、客を待たせたことによるマイナスの印象をフレンドリーな接客でリカバーしようとしたのだ。ヤクルトのバーコードを読み込んでから什器がお釣りを吐き出すまでの間に、そうすべきだと判断したのだ。

ここまで戦略的にフレンドリーさを出すことのできる人がいるのか、と少し空恐ろしいものを感じながらも、chocoxinaはおおむね彼女の思惑通り機嫌よく家路についた。 どれだけ戦略的であろうが、フレンドリーにされることは気分のよいものである。

 
・・・とここまで書いて、そういえば過去「戦略的にフレンドリーな接客」を受けて必ずしもいい気分ではなくなったケースがあったことを思い出した。  
 

去年の今頃、大流行していたPokemon GOのために周辺機器を買いにポケモンセンターポケモングッズ専門店)に行ったときのこと。

お目当てのPokemon GO Plusを手に取りながら店内をうろついていると、当時のポケモン最新作に関連するグッズが目についた。

最新作(サンムーン)の中で一番かわいいと思っている女の子(スイレンちゃん)のピンバッジで、それもキャラクターのイラストそのものではなく、彼女を象徴するアイコン(キャプテンのあかし)を模したものだった。例えばバッグにつけても(つけませんけど)、普通の人にはゲームの美少女に関するものだとはわからないたぐいのものだ。

chocoxinaはほぼ反射的にそのピンバッジを手に取ってレジに向かった。

レジには行列ができていて、そこに並んでいる間、レジの店員さんたちがお客――ポケモン好きの親子連れや女性だ――と常に一言二言ポケモンに関する会話をするのを見ることができた。

行列はことのほかさくさくと進んでchocoxinaの番になり、chocoxinaより少し若いくらいの女性店員のレジに呼ばれた。

彼女はPokemon Go Plusとピンバッジを順番にレジに通し、合計金額を伝えた後、chocoxinaに向かって
スイレンちゃん、お好きなんですか?」
と聞いた。

 
お前、お前それ、そのピンバッジ、そういうのバレたくない人が買うタイプのやつじゃん。

スイレンちゃんがでかでかと描かれたグッズはたくさんあるなかで、あえて地味なピンバッジ買ってる客じゃん。

客とは必ず世間話しろってマニュアルに書いてあるのかもしれないけど、人の萌え豚的側面に言及しない優しさってあるじゃん。やめてよ。  
 

――という気分になって大変恥ずかしかったというだけの話です。本日は以上となります。

【落ちのない話】「いつもの濃いメンツ」という概念。あるいは前職の愚痴

このほど転職をした。

 

前職ではスマートフォンゲームの運営をしていたが、現職ではwebメディアのライティングをすることになった。

 

chocoxinaは前職では上長につまらないやつだと思われていたが、現職では愉快なやつとして通っているようだ。

 

前職の上長は、自分のことを面白いと思っている人間のようだった。

彼は愉快な人だったし、彼のことを「面白い人」ということに抵抗はない。

彼は、会話の中に内輪ネタや、職権を濫用した無茶振りなどをよくはさみ、また人の面白さを判じることの多い人だった。

そういうタイプの人たちが「面白い人」を自称することを快く思わない人も多いだろうが、chocoxinaはその点に目くじらを立てようとは思わない。

日常会話の中の他愛のないジョークが、例えば芸人のネタのようによくできた面白さを伴う必要はないと思っているし、どんなによくできたジョークよりも「山田がうんこ漏らした」という一言のほうが面白くなるのが日常のコミュニティというものだ。

 

そういった認識を前提としてここで述べたいのは、そういう人たちが他人を判じるときの「面白いやつ」「面白くないやつ」というのは、「気が合う」「気が合わない」以上の何等の意味もない、ということだ。

彼らに面白いと言われたからといって例えばジョークのセンスがあるわけではないし、彼らにつまらないと言われたからといって、その人にジョークのセンスや、あるいは人間的魅力がないわけではない、ということだ。

 

前職の上長は「俺は面白い奴しか採らない」と言ってはばからなかった。被雇用者としてはこれを間違っても「人間的魅力のあるやつしか採らない」のだろうという風に解釈してはならない。ただ「俺とウマが合う奴しか採らない」と言っているに過ぎないのだ。
(ときに、なぜそんな上長のもとで「面白くない」chocoxinaが働けていたのかといえば、ひとえに過去同社に派遣で入っていて実務経験があったからに過ぎない)

 

彼が自分の言う「面白い」を「ウマが合う」の意味だと正しくメタ認識できていたかはわからない。というよりおそらく彼は自分が「ジョーク」のセンスを通じて相手の人間的魅力みたいなものを判断できると思っているのではないかと思う。

その誤謬は、Facebookの大学生や飲み屋の常連が、気の合う仲間を「いつもの濃いメンツ」と呼んでいるあの感じを思い出させる。

彼らはきっと、自分の隣の席で人知れず芥川賞作家が独りで飲んでいたとしても、彼を「つまらない奴」だと思うことだろう。人の面白さを簡単に判断できると思うことがそもそもつまらない大学生のような発想なのだ。


ともかく、自分は今のところ現職で上長から愉快なやつだと思われている。その評価が、「『うちの濃い部署』の仲間に入れてもらえたこと」を意味するのだとしたら、転職はおおむね成功といっていいだろう。ウマが合うことは何より大事である。

「ジョニ黒」をお菓子で再現する

近頃ウイスキーばかり飲んでいる。
40°という強力なアルコール度数のそれをストレートでちびっ、と口に含むと、なんというかこう、どう美味いかと形容するのが難しいのだけれど、なんかとにかくいろんな味がして美味いのである。
で、chocoxinaなんかとは違う好事家のオトナたちは、もちろんあの高級な命の水を「いろんな味がして美味い」などと雑にくくったりはせず、そのいろんな味をあらん限りの語彙をもってテイスティング・コメントとして記録している。
そこで使われる表現はさまざまだが、例えばあるウイスキーは「スモーク、スパイス、タンジェリン、トフィー、バニラ、アーモンド」の味がするらしい。
ただそれって、ウイスキーというよりほぼお菓子ではないか。

 

ジョニ黒の話

そのウイスキーというのが「ジョニーウォーカー」である

 

www.amazon.co.jp

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(Toffeeと書かれた下にキャラメルの説明があるのは日本向けのローカライズだろうか)

 

ジョニーウォーカーには原酒の熟成年数などに応じてさまざまな種類があるが、今回取り上げるのはその中の「ブラックラベル」である。聞き覚えのある方もいるかと思うが、ジョニーウォーカーのブラックといえば昔のアニメで波平やいじわるばあさんが大事にしていたいわゆる「ジョニ黒」のことである。

 

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家にあるジョニ黒の小瓶。昔は700mlで数万円?もしたそうだが、今は小瓶ならワンコインだ。

 

このジョニーウォーカー、初めて飲んだときは結構ヘビーな味わいで面食らったのだが、先程のテイスティングコメントを踏まえて飲んでみるとぐっと美味く感じられる。
アルコールのカッとした感じと一緒に広がる爽やかさは確かにタンジェリンっぽいな、とか、飲み込んだ後に上顎に張り付くような甘さは確かにトフィー……はよく知らないけどキャラメル的だな、とか、今まで口の中を自由に走り回っていた味たちが朝礼台の前に背の順で並んでくれたように、一つひとつの顔がはっきりと分かる。

 

こうなってくるともう以前の感覚に戻れないのが人間というもので、かつてあんなに煙たくて暴力的だったウイスキーがもうお菓子のようだとすら思えてくる。
それこそ「テイスティングコメントの材料でお菓子を作ったらジョニ黒味になるのでは?」とか考え出すくらいにだ。

そういうわけなので、作っていきます。

 

製作

ここで改めて、ジョニ黒のフレーバーを表す六要素は「スモーク、スパイス、タンジェリン、トフィー、バニラ、アーモンド」だった。
トフィー(砂糖とバターを煮詰めてつくるキャラメル的なキャンディのことらしい)というのが何物なのか当時は見当もつかなかったので「なんかハイソなお菓子っぽいし」と成城石井に行ってみたところ、案の定バッチリ売っていた。しかもアーモンド入りのちょうどいいやつだ。

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(1000円近くしたけど。さすが成城石井だ)

 

これに他のフレーバーを足していこう。

 

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タンジェリン代わりの普通のオレンジジュースと、シナモン、バニラエッセンスを

 

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フライパンで煮詰める。


家でお菓子を作ることがあまりないので「このフライパン、さっき餃子焼いてたやつだけど大丈夫かな」などと余計なことが気になってしまう。


そうして部屋中に「漠然とうまそうなお菓子の匂い」を漂わせながらこってりと煮詰まったオレンジジュースを、皿にうやうやしく並べたトフィーにかけると

 

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「アーモンドトフィーのスパイシーオレンジソース」とでも言うべきお菓子の完成である。


……なんだかこう、景物の異様さ(固いお菓子にゆるいソースがかかっている)にカメラの具合が相まって、前衛芸術やシュルレアリスムのような写真が撮れてしまった。

 

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 「怠惰な邂逅」 猪口 才那 2017年

 

ところで、このお菓子に「スモーク」の要素が全く入っていないことに気付いた読者様もおられるかと思うが

 

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作っている最中の自分は全く気が付いていなかったので、食べる際には家にあったお香を焚くことでスモーク感を追加しようと思います。

 

 実食

なにはともあれ実食してみる。


表面をぬらぬらとさせたトフィーを口に放り込むと、まずオレンジの爽やかさがきて、やがてアーモンドトフィーの甘さが残る。よく味わえばバニラやシナモンの香りも感じられ、お香も焚かないよりマシ程度にスモーキーさを演出する。

強いて言えばオレンジとトフィーがあまり馴染んでおらず、全体的にどこか空虚な感じがするのだが、字面だけ見る分にはかなりジョニーウォーカーである。顔は似てないのに雰囲気が伝わる関根勤のモノマネみたいな感じで、「そっくり!」とは到底言えないけれど「わかるわかる!」と言いたくなるような味だ。

 

せっかくなので本物とくらべてみよう。

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「高校生が考えたデキる男の休日」みたいな写真が撮れたぞ

 

交互に味わってみると「似てないけどわかる」という感覚がより強固になる。
お菓子とウイスキーの味を比べようとすると、自ずと「お菓子をつまみにウイスキーを飲む」かっこうになるのだが、結構主張の強い味のものをたくさんつかった今回のお菓子が、以外なほどウイスキーの邪魔をしないのだ。
また反面、それぞれいい具合に味の傾向が近いために両者の差、特にウイスキー側の良さが際立つ。
テイスティングノートに記載されない「ウイスキー味」「アルコール味」としか形容しようのない部分が、ウイスキーの深みというか、個々に際立つオレンジやトフィーの足元を支えていたんだなあ、ということがわかってくるのだ。

 

結び

そんなわけで今回の実験、完全にジョニ黒味のお菓子は作れなかったが、関根勤がジョニ黒のモノマネをしたような面白いツマミを作ることができた。
これ、いろんなウイスキーを「テイスティングコメント菓子」で飲んでみたら面白いかもなあ、とも思ったのだが、手元にある別のウイスキーは「シェリー」だの「ピート」だのやたらと入手困難なものを要求してくるので、次回以降の課題とさせて頂きますね。


といったところ、もう書くこともなくなったんですが記事として落ちが弱いので、作ったお菓子のテイスティングコメントを載せて終わりにします。

 

外観:
濃いオレンジ、濁っており、粘性は極めて強い。

 

香り:
濃密なスモークにオレンジとバニラ。スワリング(ここでは皿を回すこと)すると僅かなシナモン。

 

味わい:
フレッシュでライト。アルコールを感じさせない熟成感とオレンジの爽やかさ。続けてトフィーの甘さにナッツ。

 

フィニッシュ:
トフィーとアーモンドの長く深い余韻(噛んで食べると歯に残るから)。