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ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

2000円の3Dペンを買って二歳児に戻った話

アキバのヨドバシで、知らないおもちゃを見つけた。

売り場で一目見た途端、その場から動けなくなって、舐めるようにスペックを見て、でも買ってはならないような気がして、一度冷静になるためにトイレに入って、用を足したら一直線に売り場に戻ってまた箱を食い入るように見た。大の大人が、たかが2000円のおもちゃを前にしてだ。

今回は、そうやって買ったおもちゃが滅茶苦茶楽しかったというだけの話をします。

 

3Dドリームアーツペン

そのおもちゃは、3Dドリームアーツペンという。

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3Dドリームアーツペン|商品情報|メガトイ|メガハウスのおもちゃ情報サイト

樹脂で平面に絵を描いてからライトでじっくり硬化させて、そうして作ったパーツを立体に組み上げる、という遊び方をするものらしいのだが、ペン先に別売りのライトを付けることで、描いた先から樹脂を硬化させて「空中に絵を描く」ような使い方ができる。

 

一目見たときに「やべえぞこれは」と思った。3Dプリンターが市場に出回り始めたころに流行った「3Dペン」そのものだ。

 

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空中に絵を描ける世界初の3Dペン 「3Doodler」公式サイト|ナカバヤシ株式会社

このサイトの3Doodlerは14000円、ヨドバシで見つけた3Dドリームアーツペンはペン一本とライト一つで2000円程度。圧倒的に安い。

しかも売り場には、

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こんな作例まで展示されているのだ。

これは凄い、最近の子供はこんなハイテク玩具で遊んでるのか、欲しいな、2000円だし買うか、と、そこまで思いを巡らせたところで、ふと「ここは一旦冷静にならなければ」と思い、あわててトイレに逃げ込んだ。

 

たかが2000円の衝動買いで何を大袈裟な、とお思いだろうが、その理由を説明する前に、ちょっと身の上話をさせて頂きたい。

 

 

クリエイティブなおもちゃは怖い

chocoxinaの最近の悩みとして「老い」が怖い。

たかだか20代の若造が何を、と人生の諸先輩方は笑うかも知れないが、これは、かつては出来たことが少しずつできなくなり、かつてはきいた無茶がだんだんときかなくなってくる、という現実に人生で初めて直面した自分の素朴な本音である。

 

その中でも特に怖いのが、自分の中から「創造性」みたいなものが無くなっていくことだ。

10代の頃は、やりたい事や作りたいものがいくらでもあった気がするのに、最近はまったくそういったモチベーションが湧いてこない。

 

今もし、無数のレゴブロックが目の前に積み上げられているとして、そのブロックで何を作るか? 時々そう自問して、その度にため息をつく。作りたいものが何も思い浮かばないのだ。

 

そんなわけで、3Dドリームアーツペンを買うのが怖くなった。

アイツは「さあ、何でもすきなものを作ってごらん!」と我々を迎えてくれるようでいて、その実「いったい俺で何を作ってくれるんだ?」と創造力を試してくる。

もし、アイツを買って何も作れなかったら。考えるだに恐ろしかった。想像の中の「レゴブロックの山の前で立ち尽くす自分」が現実のものになって、老いた自分と真正面から向き合うことになるからだ。

 

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老いを恐れるchocoxina(イメージ)

 

やはり買うのはやめようか、と思いながらトイレから出て、やはり最後にもう一目だけ見ようと売り場に戻ってみたが、そのおもちゃは変わらず魅力的だった。

何を作るかはともかく、このペンで空中に線を引いて、出来上がったものを触ってみたい、と思った。こんなに何かが欲しくなるのは数年ぶりだった。

頭の中で発展性のない問答を繰り返して、最終的に、最低限のセット(ペン一本とライト一つ)だけを買って帰った。

 

長々としみったれた話をしましたが、以下たのしいおもちゃレポートになります。

 

 

こういうおもちゃです

さて、このペンとライト。

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画像右のペン本体は修正液のようなタイプで、蓋を兼ねたペン先を少し緩めてから本体の膨らんだ部分を押すと、ニュルニュルとインクが出てくる。ここの押し加減で出てくるスピードを調整するようなイメージだ。

そこに画面左のライトをはめると、このようになる。

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LEDが3つペン先に向けられており、ペン先から出たインクをただちに硬化させるようになっているのだ。

ちなみにこのライト、ONにするといかにも「紫外線とか含んでます」的な青くて強い光を放つ。

テーブルに跳ね返った光でさえ、凝視すると目の奥にズン、と来るような感じがあり、多分あまり目にいいものではないだろう。注意書きにも「長時間作業しないように」とある。

 

ともかく、こうして完成したものを見てみると、笑っちゃうくらい単純である。

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ダライアスに出てきそう

 

普通の3Dペンなら、大仰なペン本体の尻から長いフィラメントを挿し入れ、ACアダプタもつなぎ、スイッチを押して本体内の複雑な機構で送り出し、先端でヤケドしそうなくらい加熱してやっと樹脂が出て来るというのに、こちらは「絞り出してから、光を当てる」だけだ。

こんなんで空中に絵を描こうというのか。このあと半信半疑で線を引いてみたわけだが、これがもう、すごかったのだ。

 

線を引くと、線が引ける

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その辺にあったマカダミアナッツチョコの箱に、柔らかいままの樹脂で土台(チョコの左上のとこ)を作ってから、ライトを点けた本体を強めに握って、土台を起点に真上にすっ、と引く。

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!!

 

このときchocoxinaが受けた衝撃、画像で伝わっただろうか。

いや、伝わるものか。

 

読者の皆様には「チンアナゴの霊」みたいなものがマカダミアナッツチョコの箱の上に立っている画像しか見えていないだろうが、これは、俺が、たしかに、空中で、引いた、線なんですよ。

 

 

伝われ、この感動

ペンを握り込むと、ペン先にインクが滲む。

滲んだインクはただちに硬化してもとの場所にとどまり、動かされたペンは硬化した樹脂から離れていく。

硬化した樹脂とペン先の間には新たににじみ出てきたインクがつながっていて、それもまた直ちに固まる。

このサイクルが目にも留まらぬスパンで繰り返され、インクの排出(握り込む強さ)と動かす手の速さが釣り合ったとき、そこには「空中に線を引いている」というひとつながりの知覚が生じるのだ。

 

すっ、とペンを動かすと、何もない空間にすっ、と白い線が生じる。これだけのことがただ楽しい。

 

そこからはもう猿のように線を引いた。

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たまたま部屋に落ちていた安全ピンをおさかなさんにしてみたり

 

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なんとなく描いた三角形をなんとなくどんどん繋げて、何らかの構造を作ってみたり

 

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なんとなく思い浮かべた文字(しもネタ)を空中に書いてみたり

 

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もはやなにか計画するのもまどろっこしくなって、思いつくままに線を引いたりした。

 

この楽しさをどうにか人に伝わるように説明するなら「ものすごくレスポンスのいいペンタブを触ったとき」の感動が近いだろうか。しかもそれが三次元に描けて、後には触れられるものがその場に残るというオマケまである。

 

また、自分が滅茶苦茶に線を引きながら想像したのは「初めてクレヨンを握った幼児」の気持ちだ。

 

握り心地のいいカラフルな棒を紙に押さえつけて、ぐいっと動かすと、紙の上に鮮やかな線があらわれる。

きっと幼い我々はそれだけのことが楽しくて、ただ画用紙を真っ赤に塗りつぶしたり、床や壁に色とりどりの素敵な線を生じさせたりしたのだろう。

3Dドリームアーツペンを握ったchocoxinaの気持ちは完全にそれだった。だって、線を引くと、線が引けるのだ!

 

 

クリエイティブはこわくなかった

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改めておさかなさん。どう見ても二歳児の所業だが、27歳児の作である。

 

この玩具を購入する前の自分は「これを使って、なにか意味のあるものを作れなかったらどうしよう」と思い悩んでいた。

それが今や、無限のポテンシャルを持つおもちゃでわざわざなんの意味もない線を引いて喜んでいるし、そのことに関してなんの負い目もない。

 

子供がレゴブロックを手に取るときだって、今のchocoxinaと同じような気持ちだろう。

色とりどりのブロックをぱちん、と嵌めると、ブロックは嵌めたとおりの形を保ち、そのことがただ楽しい。そうやって気の赴くままにブロックを組み上げるうちに、そのカタマリが家や車や動物やモンスターに見えてきて、イメージ通りに組み上げたいという欲求が湧いてくる。

購入前のchocoxinaの「何を作るか思いつかないから、買わない」という考えは、そもそも順序が逆だったのだ。

 

3Dドリームアーツペンはchocoxinaを二歳児に戻してくれた。

ペン先がつまりやすいとか、固まってないインクが手につくとやたらベタベタするとか、欠点も少なくないおもちゃだが、これからも折に触れて触るだろうと思う。

触っているうちになにか作りたいものが思い浮かんでも、なにも思い浮かばなくても、大した問題ではないわけだし。