chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

「ジョニ黒」をお菓子で再現する

近頃ウイスキーばかり飲んでいる。
40°という強力なアルコール度数のそれをストレートでちびっ、と口に含むと、なんというかこう、どう美味いかと形容するのが難しいのだけれど、なんかとにかくいろんな味がして美味いのである。
で、chocoxinaなんかとは違う好事家のオトナたちは、もちろんあの高級な命の水を「いろんな味がして美味い」などと雑にくくったりはせず、そのいろんな味をあらん限りの語彙をもってテイスティング・コメントとして記録している。
そこで使われる表現はさまざまだが、例えばあるウイスキーは「スモーク、スパイス、タンジェリン、トフィー、バニラ、アーモンド」の味がするらしい。
ただそれって、ウイスキーというよりほぼお菓子ではないか。

 

ジョニ黒の話

そのウイスキーというのが「ジョニーウォーカー」である

 

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(Toffeeと書かれた下にキャラメルの説明があるのは日本向けのローカライズだろうか)

 

ジョニーウォーカーには原酒の熟成年数などに応じてさまざまな種類があるが、今回取り上げるのはその中の「ブラックラベル」である。聞き覚えのある方もいるかと思うが、ジョニーウォーカーのブラックといえば昔のアニメで波平やいじわるばあさんが大事にしていたいわゆる「ジョニ黒」のことである。

 

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家にあるジョニ黒の小瓶。昔は700mlで数万円?もしたそうだが、今は小瓶ならワンコインだ。

 

このジョニーウォーカー、初めて飲んだときは結構ヘビーな味わいで面食らったのだが、先程のテイスティングコメントを踏まえて飲んでみるとぐっと美味く感じられる。
アルコールのカッとした感じと一緒に広がる爽やかさは確かにタンジェリンっぽいな、とか、飲み込んだ後に上顎に張り付くような甘さは確かにトフィー……はよく知らないけどキャラメル的だな、とか、今まで口の中を自由に走り回っていた味たちが朝礼台の前に背の順で並んでくれたように、一つひとつの顔がはっきりと分かる。

 

こうなってくるともう以前の感覚に戻れないのが人間というもので、かつてあんなに煙たくて暴力的だったウイスキーがもうお菓子のようだとすら思えてくる。
それこそ「テイスティングコメントの材料でお菓子を作ったらジョニ黒味になるのでは?」とか考え出すくらいにだ。

そういうわけなので、作っていきます。

 

製作

ここで改めて、ジョニ黒のフレーバーを表す六要素は「スモーク、スパイス、タンジェリン、トフィー、バニラ、アーモンド」だった。
トフィー(砂糖とバターを煮詰めてつくるキャラメル的なキャンディのことらしい)というのが何物なのか当時は見当もつかなかったので「なんかハイソなお菓子っぽいし」と成城石井に行ってみたところ、案の定バッチリ売っていた。しかもアーモンド入りのちょうどいいやつだ。

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(1000円近くしたけど。さすが成城石井だ)

 

これに他のフレーバーを足していこう。

 

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タンジェリン代わりの普通のオレンジジュースと、シナモン、バニラエッセンスを

 

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フライパンで煮詰める。


家でお菓子を作ることがあまりないので「このフライパン、さっき餃子焼いてたやつだけど大丈夫かな」などと余計なことが気になってしまう。


そうして部屋中に「漠然とうまそうなお菓子の匂い」を漂わせながらこってりと煮詰まったオレンジジュースを、皿にうやうやしく並べたトフィーにかけると

 

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「アーモンドトフィーのスパイシーオレンジソース」とでも言うべきお菓子の完成である。


……なんだかこう、景物の異様さ(固いお菓子にゆるいソースがかかっている)にカメラの具合が相まって、前衛芸術やシュルレアリスムのような写真が撮れてしまった。

 

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 「怠惰な邂逅」 猪口 才那 2017年

 

ところで、このお菓子に「スモーク」の要素が全く入っていないことに気付いた読者様もおられるかと思うが

 

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作っている最中の自分は全く気が付いていなかったので、食べる際には家にあったお香を焚くことでスモーク感を追加しようと思います。

 

 実食

なにはともあれ実食してみる。


表面をぬらぬらとさせたトフィーを口に放り込むと、まずオレンジの爽やかさがきて、やがてアーモンドトフィーの甘さが残る。よく味わえばバニラやシナモンの香りも感じられ、お香も焚かないよりマシ程度にスモーキーさを演出する。

強いて言えばオレンジとトフィーがあまり馴染んでおらず、全体的にどこか空虚な感じがするのだが、字面だけ見る分にはかなりジョニーウォーカーである。顔は似てないのに雰囲気が伝わる関根勤のモノマネみたいな感じで、「そっくり!」とは到底言えないけれど「わかるわかる!」と言いたくなるような味だ。

 

せっかくなので本物とくらべてみよう。

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「高校生が考えたデキる男の休日」みたいな写真が撮れたぞ

 

交互に味わってみると「似てないけどわかる」という感覚がより強固になる。
お菓子とウイスキーの味を比べようとすると、自ずと「お菓子をつまみにウイスキーを飲む」かっこうになるのだが、結構主張の強い味のものをたくさんつかった今回のお菓子が、以外なほどウイスキーの邪魔をしないのだ。
また反面、それぞれいい具合に味の傾向が近いために両者の差、特にウイスキー側の良さが際立つ。
テイスティングノートに記載されない「ウイスキー味」「アルコール味」としか形容しようのない部分が、ウイスキーの深みというか、個々に際立つオレンジやトフィーの足元を支えていたんだなあ、ということがわかってくるのだ。

 

結び

そんなわけで今回の実験、完全にジョニ黒味のお菓子は作れなかったが、関根勤がジョニ黒のモノマネをしたような面白いツマミを作ることができた。
これ、いろんなウイスキーを「テイスティングコメント菓子」で飲んでみたら面白いかもなあ、とも思ったのだが、手元にある別のウイスキーは「シェリー」だの「ピート」だのやたらと入手困難なものを要求してくるので、次回以降の課題とさせて頂きますね。


といったところ、もう書くこともなくなったんですが記事として落ちが弱いので、作ったお菓子のテイスティングコメントを載せて終わりにします。

 

外観:
濃いオレンジ、濁っており、粘性は極めて強い。

 

香り:
濃密なスモークにオレンジとバニラ。スワリング(ここでは皿を回すこと)すると僅かなシナモン。

 

味わい:
フレッシュでライト。アルコールを感じさせない熟成感とオレンジの爽やかさ。続けてトフィーの甘さにナッツ。

 

フィニッシュ:
トフィーとアーモンドの長く深い余韻(噛んで食べると歯に残るから)。