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ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

メキシコのコーラを飲んだ男は不幸を知り、自作コーラに手を出す

「メキシコのコカ・コーラは美味い」

そんな噂を最初に聞いたのはいつのことだったか。

「普通よりちょっと特別」なコカ・コーラに思いを馳せて幾星霜、先日ひょんなことからそのメキシカンコーラを手に入れることができた。

本稿は、そんなメキシカンコーラを飲んだ筆者に訪れた不幸と、そこから連なるコーラ探求の記録である。

なぜメキシカンコーラは美味いのか

そもそもなぜ、メキシコのコカ・コーラが他の国と比べて美味しいなどということがあり得るのだろうか。

おおかたの予想通り、コカ・コーラの原液(コーラシロップ)というのは、世界中どこも全く同じものが使われている。

シロップのレシピは金庫に厳重に補完されていて、その中身を知る者は世界に7人しかいない……なんて噂を聞いた人も多いことだろう。

そういったわけで、いわゆる「コーラのあの味」をつかさどる部分はたしかに万国共通なのだが…… 我々が普段口にするあのコーラを作るには、コーラシロップに糖を加えて炭酸水で割る必要がある、というのがポイント。

日本をはじめとした多くの国では、原液にぶどう糖果糖液糖(コーン由来のもの)を加えてコーラを作るのに対し、メキシコではサトウキビ由来の砂糖が使われている。

メキシコは世界第7位の砂糖生産国であり、品質の高い砂糖が得られるために、そこで作られたコーラは他国のものよりも美味しい、というわけだ。

そんな通称メキシカンコーラ、コーラを愛する者としてぜひ飲んでみたかったのだが、遠く離れたメキシコの食品ともなると、手に入れるまでにどれだけのハードルがあるか想像もつかない。

そのため、メキシカンコーラの噂を最初に聞いたときも、まさか自分が手に入れられるとは思わず、数年にわたってすっかり忘れていた。

しかし自粛中、ウインドウショッピング代わりによく見るようになったメルカリでふと調べてみたら、

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あっさり手に入れることができた。なんでもあるなフリマサイトというのは。

メキシカンコーラの美味しさと、それがもたらす不幸

そういうわけで実際に飲んでみよう。

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上の黒いところにカロリーなんちゃらみたいなことが書いてあるので、すわダイエットコークを買ってしまったかと肝を冷やしたんですが、調べてみたら「カロリー/糖が過剰なので注意」っていう法定表示でした。

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メキシコの来賓をお迎えするということで、テクスメクス料理を用意しました。筆者がメキシカンコーラをどれだけ楽しみにしていたか、ここから感じ取って下さい。

さて、このとおり筆者は大いなる期待を抱えながらメキシカンコーラを飲んだわけだが、第一印象については「拍子抜け」だったことを告白せねばならない。

例えばコカ・コーラドクターペッパーになるような劇的な変化はなく、「ふつうのコーラじゃん」と思ってしまったのは紛れもない事実だ。

しかし、このメキシカンコーラの本当の恐ろしさは、ふつうのコカ・コーラと飲み比べたときに顔を見せる。

日本の、あれだけウマいウマいと飲んでいたコカ・コーラに、粗が見え始めるのだ。

一口目、炭酸の刺激と一緒にほんのわずかに苦味があるような気がするし、後味がどこかくどいような感じがする。

端的に言えば、日本のコーラが「ニセモノ」になったようだった。

表現を変えれば、メキシカンコーラと普通のコーラの間に、普通のコーラとダイエットコーラほどの、小さくかつ決定的な差が見出された、とも言えるだろう。

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「飲んでる画」を撮りたかったのですが、カメラを警戒しすぎてなんの味も伝わらない画像になってしまいました

メキシカンコーラのウマさは、ふつうのコーラと大きく傾向が変わるものではなく、既存のコーラを研ぎ澄ますタイプのウマさ。

我々がコーラのボトルを開けるその瞬間に期待する、脳内でやや美化されたコーラの味そのものだ(筆者が一口目を「ふつう」と感じた理由もここにある)。

そんなメキシコのコーラを知ってしまった口で飲む日本のコーラは、さながら大人になってから見るギャグ漫画のお色気シーンのよう。

もう「あの時」の衝撃を感じられなくなった自分を、どこか恨めしく俯瞰で見下ろすような気持ちだ。

――わざわざ3000円以上の金を払って、みすみすコカ・コーラを楽しく飲めない舌を手に入れる。

このとき筆者の感じた失望は、読者の皆様の想像を超えてシリアスだ。

新たなコーラを求めて

メキシカンコーラを飲んで以降の筆者は、さながら失恋の痛みを誤魔化そうとして行きずりの男と寝るかのように、のべつまくなしに様々なコーラを飲んだ。

そうしたところで結局、メキシカンコーラを忘れることはできず、リモートワークで鈍った体にさらに脂肪が乗る以上の成果はなかったわけだが……
思わぬ効用として、あの思えば謎の多い飲み物であるところの「コーラ」に対する理解が深まった感があるので、そのあたりの整理もかねて、筆者のコーラ遍歴をご紹介しよう。

case1.キュリオスティコーラ

先ほども軽く触れたとおり、メキシカンコーラと日本のコーラの違いは、含まれている糖の違いだ。

となれば、メキシカンコーラのあの味に焦がれた筆者が、砂糖の使われたコーラに手を出すのは必然といえる。

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キュリオスティコーラ

ヴィレッジヴァンガードで、「世界一ウマいコーラ」などと描かれた大量のPOPと共に売られているのを見たことがあるかもしれない。

このキュリオスティコーラ、飲んでみるとあの「砂糖でできたコーラ」特有の甘味が感じられて大変美味しいのだが、残念ながらメキシカンコーラの思い出を消すまでには至らなかった。

飲んだことのある人には分かるかと思うが、あまりに味が違いすぎるのだ。

キュリオスティコーラの味は、生姜の香り、それも生姜から辛みだけを綺麗に抜き取ったような奇妙で芳醇な香りが、真ん中にどっしりと据わったもの。

筆者はやや落胆しながらも、コカ・コーラと全く違う味でありながら紛れもなく「コーラ味」だったこの小瓶に、よく見知ったつもりだったコーラという飲料の、思わぬ懐の広さを感じたのだった。

case2.伊良コーラ

ところで、昨今は「クラフトビール」「クラフトジン」に続いて「クラフトコーラ」が静かなブームだそうだ。

ジンに個性的なボタニカルを入れるのと同様、さまざまな副材料で個性を出したコーラが、小規模なメーカーからちらほら販売されているらしい。

そんなクラフトコーラの中でも、製造元が筆者の生活圏に近く、この疫禍にあって無理なく手に入れられたのが「伊良コーラ」。

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「いよし」と読むそうです

さきほどのキュリオスティコーラが明確に生姜の味わいを推していたのに対し、こちらは「12種類のスパイスと柑橘類」の調和が売りだそうだ。

先の例もあったので、メキシカンコーラの代替としての役割には期待していなかったのだが、これはこれでなかなかどうして、常飲したい感じの軽く華やかな味がする。

成分表に生姜の文字が見られないわりにピリリと辛い感じもあるのだが、これは原材料のコーラナッツによるものだろうか。

コーラナッツというのは、まさに「コーラ」の語源になったアフリカの木の実で、もともとコーラのカフェインはこの実に由来していたそうだ。

ただ現在売られているほとんどのコーラはこの実の成分を含んでいないらしく、この伊良コーラは貴重な例外ということになる。

メキシコの味を追い求めていたら、不意に100年前のアフリカの味にたどり着いた格好だ。

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外で飲みたい気分だったので持って出てきたんですが、まだ普通に寒いですね

そんな伊良コーラに難点があるとすれば価格で、買う場所にもよるが250mlで500円強。

容量あたりの値段でいえば、いろんな経費が乗ったメキシカンコーラと同程度となり、さすがにガバガバとは飲めないハイソぶりである。

もっとも、今後もし「ちょっと特別な日」に自分が「コーラの口」になっていたとすれば、メキシカンコーラよりもうんと簡単に味わえる、というのは、伊良コーラの明らかな利点だろう。

case3.ペプシコーラ

さて、メキシカンコーラを飲んだときの「キツさのない感じ」を思い出させてくれたのが、これまで紹介したどのコーラでもなく、あの「ペプシコーラ」だったことは特に記しておくべきだろう。

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「ジャパンコーラ」じゃないほうのやつです

改めて飲み比べてみると、ペプシコーラコカ・コーラと比べると刺激の少ない味で、メキシカンコーラのスムースさ、エグ味のなさを思い出させてくれる。

砂糖入りのコーラのような甘い余韻はどうしても感じられないが、コカ・コーラや、ここまで紹介しなかったマイナーなコーラ(ノーブランドな自販機で売っているようなやつ)から筆者が感じ取るようになってしまった「コーンシロップ味」みたいなものがあまり目立たない。

そのうえで、ここまで紹介したクラフトコーラ類とはちがう、あのナニ味ともつかぬレベルで種々のフレーバーが混然一体となった「あのコーラ味」を備えているという点で、今のところどのコーラよりも(日本のコカ・コーラよりも!)メキシカンコーラに近いと感じられた。

クラフトコーラと「2大コーラ」を隔てるものは何か、どのコーラにも通底する「コーラ味」と、大手にしか見られない「2大コーラ味」の差はなんなのか?

いくら成分表を睨んでも答えの出ない問いに立ち向かうべく、筆者はとうとうコーラの自作に手を出した。

case4.自作コーラ

昨今のクラフトコーラブームでそこそこ知られるようになったとおり、コーラは適切なスパイスと砂糖等によって作ることができる。

レシピは紹介される媒体によってまちまちだが、レモン、シナモン、バニラはどこを見ても入っているようなので、恐らくこれらが「(広義の)コーラ味」の正体なのだろう。

今回はそれに加え、かつてコカ・コーラのレシピとして流布された文書に記載のある材料のうち、簡単に手に入るものを中心に以下の材料を調達した。

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「アルコール」の代わりにウイスキーを選んだあたりで、コカ・コーラの再現については諦めました

基本的には、これらのうち熱に強そうなものを鍋に入れて煮立てたあと、残りの材料を加えて一晩置けばコーラシロップの完成。

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レモンについては、皮と果実は先、果汁は後に加える

これを適当な割合のソーダ水で割れば「いわゆるコーラ」となる。

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こうして出来たコーラは、当然というかなんというか「2大コーラらしさ」の実現には至らなかったのだが、その片鱗を掴めた感触はある。

今回コリアンダーを利かせすぎてやや苦味が立ってしまったものの、これをもう少し落ち着ければ、2大コーラの爽やかさに近づきそうだ。

あの「2大コーラ味」は思いのほか、「広義のコーラ味」と地続きにあるのかも知れない。

さらば愛しきメキシカンコーラ

筆者が買ったメキシカンコーラは、355ml入りの4本セット。

なるべく大事に飲もうと思っていたのだが、これまで紹介したコーラと飲み比べたりしているうちに、気付けば残り一本になってしまった。

今この原稿を書きながら最後の一本を開けたのだが、コーラへの理解を深めた今になって飲むそれは、今まで飲んだどのコーラよりも明確に美味い。

君はいい奴だったよ、と、飲み終わった缶を洗ってから名残惜しくデスクに飾ったところで、今回は筆を置かせて頂く。

「悪い男」に振り回されて不幸になる覚悟があるなら、皆さんもぜひ一度、メキシコのコカ・コーラを試してみてほしい。