【落ちのない話】デパートの柱をじゃきじゃきにする仕事
少し前、新宿小田急を歩いていたら、一階の一部が「天井工事中」となっていて、がっつり工事用の足場が組んであった。
「なんの工事かなあ」と思いながら頭上を眺めていると、ちょうど工事中の部分と工事中でない部分の境目にさしあたって、その工事中でない(おそらく工事が終わった)部分では、天井というよりはむしろ柱の上部に、なにかこうじゃきじゃきとした、例えるならCPUのクーラーのような装飾が付いていることに気付いた。柱に装飾を施すための工事だったわけだ。
思い起こせば、デパートの柱というのはたしかになにかしらの装飾がついていることが多かったように思うが、今まで特段意識したこともなかった。でも世の中には「そろそろ柱の装飾を変える季節だな」とスケジュールする人や「今度の装飾はなんかじゃきじゃきしたやつにしよう」とデザインする人、そのじゃきじゃきしたやつを実際に作る人や、それを取り付けるための工事をする人がいるのだな、という気づきがあった。
で、そうやって、柱の装飾をじゃきじゃきにするひとたちの中で、とくに具体的な意匠、つまり、今シーズンはじゃきじゃきにしようとか、シーズンによっては水玉だったりしましまだったりにしようと決める人たちというのは、一般にはデザイナーと言われるものなのだろうけど、そういうデザイナーさんというのはつまり「なにデザイナー」なんだろうか。「デパートの柱デザイナー」というわけでもないだろうし、さしづめ「空間設計デザイナー」といったところだろうか。いちど話を聞いてみたい。
水を旨くするラーメン調べ
学生の頃は、水分補給といえばもっぱら炭酸飲料で、ペットボトルの水などは「なぜわざわざ好きこのんで味のしないものを」と下に見ていた節すらあったのだが、いつからか只の水をことのほか美味しく感じるようになった。
天気の良い日にコンビニで買って飲む天然水や、一汗かいた後にウォーターサーバーから飲むよく冷えた水なども素晴らしいが、一番水がおいしいシチュエーションといえばやはり「ラーメン屋」だと思う。
むせ返るような湯気をかき分けて熱々の麺をわっしわっしと啜ったあと、すっかりラーメン味になった口の中にキンキンに冷えた水を流し込むのだ。
あれって、やはりラーメンの種類によって水の美味しさも変わるのだろうか。調べてみよう。
家系ラーメン
なんとなく「やっぱり濃い味のスープを流し込むように飲む水が旨いだろうなあ」と思ったので、知っている中で最も味の濃いラーメン屋に来た。杉並区方南にある「桂家」という店だ。
今年の初めごろまで店主の体調不良で長期休業していた上、現在も不定休で門前払いを食らうことも多いため、たまにこうして営業中だとついテンションが上がってしまう。
スープは濃厚だが油に覆われて刺々しい感じはなく、それぞれ強烈な油と旨味と塩気とがひとかたまりになって、舌に重いブローを利かせてくる。
一枚一枚がうれしい厚さに切られたチャーシューをかじり、よくスープに馴染んだ海苔とほうれん草で半ライスをかき込む。「家系を食いたい」と思ったときに活性化する脳の部位がすべて喜んでいる感じがする。
口中を支配する濃厚な味と油が、たかが水一杯くらいでは切れてくれないのだ。
給水器の水そのものが、ピッチャーから供されるものほどには冷えていないのも相まって、飲み切ったあとの「水がうめえな!」という感慨はない。「春休み前に転校してきた奴」くらいの印象の薄さだ。
しかしここでも水を飲む利点は確かにあって、例えば麺をひととおり食べ尽くしたあとでスープを残して帰るつもりで水を飲むと、口のなかに残るスープの味が懐かしくなってスープを一口すすってしまい、そこからまた止まらなくなる、という風に、幸福なジレンマを味わうことができる。
家系ラーメン
- サポート力(水を旨くする力):★★☆☆
- 飲んだ水の量:1.5杯
- 水どころではなさ:★★★★
- 水の飲み頃:スープと交互に少しずつ
天下一品
家系ラーメンが「水のチェイサー」としてはやや不十分だったため、別ベクトルで濃い味のラーメンを求めて天下一品に来た。
この特徴的なスープを見ているだけで喉が渇く。これは期待できそうだ。
指先にありがたい重みを感じながらすすると、吸い込む空気にまるで色でもついていそうなほどの鶏ガラの臭気が満ちて、むせ返りそうになる。
重さに負けないようにわしわしと麺をすすり、ざらついたスープの中の強烈なうまみに卒倒する。軽快な食感のメンマであごを休めながら、戦うように食う。
天一のこってり味とざらざら感が綺麗に洗い流されて、清純な水の味が舌を滑る。
ピッチャーから注ぎたての水は、麺をすすり続けて酸欠気味になった脳をキンと冷やしてくれる。瀕死のときに飲むエリクサーはきっとこういう味がするのだろうと思う。
天下一品
- サポート力:★★★★
- 飲んだ水の量:2杯
- 中毒性:★★★☆
- 水の飲み頃:いつでも
汁なし担々麺
さて、もう一軒くらい調査をしたいところだが、三日連続のラーメンはさすがにいろいろ(肌とか肝臓とかに)不安がある。
最後はなるべく体に悪くなさそうなものがいい。例えばスープがなくて、ちゃんと野菜とかが入っているもの。
そういえば、そもそも本場中国では汁の入っていないのが普通の担々麺だとかいう話もありますが、今回のメインは水なので些末な話ですね。
――濃厚なゴマの香りの中にひき肉のうま味、あとはアミエビかなにかの複雑な風味が広がる。クセになるタイプの味だ。
担々麺のキモである唐辛子と花椒はその濃厚さに覆われているようでいて、食べ進めるうちにじわじわと辛い。額の汗腺が開き、舌先が正座した足みたいに痺れる。身体がイレギュラーな刺激に対応しようと活性化するのが分かる。金曜夜の疲れ切った脳に喝が入る。
上に乗ったシャキシャキの水菜が爽やかで、口の中が適度にリセットされていくらでも食べられるようだ。
花椒で心地よくしびしびととした舌を、キンキンに冷えたレモン水が流れる。するとなんだか、水の冷たさがアップしたような、むしろソーダ水の味がするような、とにかく不思議な感覚がして楽しい。
そうでなくても唐辛子でじんわりと汗をかいた身体はおのずと水を求め、麺を完食した後の何も残っていない状態から、水を2杯、3杯と飲めてしまうのだ。
汁なし担々麺
- サポート力:★★★☆
- 飲んだ水の量:3杯
- 楽しさ:★★★★
- 水の飲み頃:すべて食べ終えてから
まとめ
結論ありきで検証を進めた感があるが、ともかく今回の調査では、水を旨くするラーメンの条件として
・味が濃い
・油っぽすぎない
・そもそも水がピッチャーで出ていて冷たい
が大事であることがわかった。今後も引き続き、今回の条件に合致する「本格派博多とんこつ」や、条件に当てはまらないのにやたら水が美味かった記憶がある「昔ながらの鶏ガラ醤油」などについても調査を進めたい。
とはいえ、本件検証後の土曜日は内蔵が疲れて一日中ぐったりしていたので、しばらく日を空けたいと思います。
悪夢で見たエレベーターに乗る
このやべー角度のエレベーターに乗ってきました
誰もが悪夢に悩む
いろいろな人が共通して見る悪夢、というのがあるらしい。
数年前のある時期、「歯が抜ける悪夢」を何度も見ることがあったので、すがるような気持ちでGoogle検索をかけたところ、夢占い関連の記事がわんさかヒットした。
歯が抜ける夢 - Google 検索
占いの結果はともかく、ある夢が夢占いの事例集に載るということは、占い師がその夢について何度も相談を受けたということだろう。それを知っただけで「俺だけじゃないんだな」と安心したのを覚えている。
夢占い関係のサイトにはほかにもさまざまな悪夢の定型が紹介されていて、例えば
・何かに追われる
・冤罪を受ける
・叱責される
・暗いところへ落ちる
などが「メジャーどころ」のようだ。読者の方にも、いくつか思い当たる例があるのではないかと思う。
今回取り上げる悪夢も、上で紹介したものほどではないにせよ結構メジャーらしいのだが、果たして共感してくれる方はおられるだろうか。
ええっと、「エレベーターに乗る夢」なんですけれども。
エレベーターの悪夢とは
(これから、人に聞かせる話として最大のタブーである「自分が見た夢の話」をさせて頂くんですが、どうかほんの少しだけ我慢してついてきて下さい)
――見覚えのないエレベーターに乗った状態から夢は始まる。
――そのエレベーターはガラス張りになっている。外は漠然とした「街」であったり、工場の中や荒れ野だったりする。
――エレベーターは自分の操作を待たず勝手に動き出す。それはただ上昇するだけではなく、地面と平行に動いたり、うんと大きくジャンプしたり、建物や地形をなぞるように動いたりする。その予測不可能な動きや、どこへ連れて行かれるか分からない状況が、えも言われぬ恐怖を呼び起こす。
――そうして乗客を思うさま振り回しているうちにエレベーターは止まって、目的地(謎の団地や、昔のガールフレンドの家や、実家の周りの住宅街)に俺を放り出す。
――その目的地に、何かしらのトラウマを想起させられるうち、夢は次第に輪郭をおぼろにしていく――
(お付き合いいただきありがとうございます。口直しに空でも眺めてください)
重ね重ね、読者の皆様には夢の話などしてしまって恐縮なのだが、実はこういうタイプの夢を見るのはchocoxinaだけではないらしいのだ。
そのことを知ったのはごく最近、日課のネットサーフィンに勤しんでいたときのこと。
Twitterでたまたま「水平に動いてから垂直に上がるエレベーター」というのを見かけて、すげえ! これ夢で見たことある! などと感激していたら、
なんだか、他にもそういう意見が続々と集まっている。
マジで? みんなもエレベーターの悪夢見るの? 俺も俺も!
「夢で見た感じのエレベーターが実在する」「しかもその夢を見ているのは俺だけではないらしい」という2つの興奮がないまぜになって、気づけば仕事そっちのけでエレベーターについて調べていた。
上記の動画はどうもイタリア(?)の工場で撮られたものらしいのだが、同じくらい変わったエレベーターが日本にもあるらしい。
やっべ、行こう。
エレベーターに乗りに山梨まで
新宿からまずは京王線か中央線で高尾まで、そこから中央本線に乗り換えて四駅。都合一時間少々で今回の目的地である四方津(しおつ)駅に到着する。
レトロで可愛らしい佇まいの駅
駅周辺はご覧の通り山あいののどかな町で、旅馴れていない筆者からするとこの段階で既に夢っぽい。今夜の夢はトトロの世界かな? という感じだ。
名所案内を参考にこのままハイキングと洒落込みそうになったが、今日の目的はエレベーターである。
で、そのエレベーターというのは、四方津駅から北に、案内板などに従って歩道橋を2分ほど歩いたところにある。
この画面両脇の
これ!
のどかな駅周辺から徒歩2分でこの近未来っぷり。それこそ夢みたいな唐突さである。
駅から本当にすぐの所にあるこの施設は、名前をコモア・ブリッジといい、山の上にあるニュータウン「コモアしおつ」にアクセスするための通路となっている。
肝心のエレベーターは見ての通り斜めに、山の斜面に添って動くタイプで、こういう形式のものを機能そのままに「斜行エレベーター」というらしい。
(ところで、1枚目の写真の真ん中にでんと構える超長いエスカレーター。こちらも大変気になるところだが、
訪問した際は修理中だったのか、乗ることは叶わなかった)
ともあれエレベーターを見ていく。
まずはドア部。見切れた画面左側のボードに昇降ボタンがある。
通常のエレベーターでは階数を表示することが多いドア上部は、20mきざみでエレベーターの大まかな位置が表示されるようになっている(そう、このエレベーターは全長200mもある!)。
内装はドアと同じスカイブルー。長めの搭乗時間をつぶすためにテレビがついていたり、天井がお洒落なアーチ状だったりと「しつらえが良い」という言葉がしっくり来る。全体としてはほんのりレトロなたたずまいで、ビビッドな水色が上品にまとまっている印象だ。
「下」「上」という、あまり見たことのない行き先階ボタン。
こうして内装の写真を撮りまくっていると、程なくエレベーターは動き出した。
それに気づいてガラス張りの後方を振り返ると「ああ、これだ」という思いがした。待ちわびた悪夢だ。
夢にまで見た
エレベーター独特の浮遊感のある乗り心地と、慣れない方向に動く景色が、少しずつ現実味を失わせる。
自分の元いた場所を眺めると、景色がフラクタルのように遠ざかる。「どこか知らない所へ連れて行かれる」という感じがする。そういえば俺は、この上がどんな場所だか知らない。
備え付けのテレビからはうっすらとニュースキャスターの声が聞こえ、けぶったガラスの向こうからは淡く日が差す。例えばよく晴れた休日、居間のソファでまぶたを薄日に照らされながらうたた寝したら、こういう夢を見るだろうな、と思う。
ドア越しの景色。さまざまな角度の柱が、さまざまな距離感で視界を通り抜ける。傾いているのは地面か、柱か、それともこのエレベーターか、少しずつあやふやになってくる。
録画を切った直後、レールの継ぎ目かなにかに躓いたエレベーターが、小さくがこん、と揺れた気がした。それとも、揺れたのは自分自身だったろうか?
――そろそろ時間感覚すら失われようかというとき、エレベーターは上階に到着した。
上階のホールにはコモア・ブリッジの模型が展示されていて、それを眺めていると「そうか、俺はさっきまでこれに乗っていたんだな」と、主観的な体験と客観的な事実とがようやく繋がったように思えた。
予期せぬ白昼夢、コモアしおつ
さて、いい体験ができたしもう帰ってもいいんだけど、せっかく上ってきたんだから、と、軽い気持ちで「コモアしおつ」にくり出したのだが。
そこはおおよそこんな感じの、ごくごく普通の住宅街だった。
普通の住宅街。
確かにその通りだったのだが、それを見るchocoxinaの心中はどこか穏やかでなかった。
家々の淡い色の壁や、よく整えられた庭などを眺めながら散策するうち、無視できない違和感が胸に澱(おり)をつくるのを感じた。
・・・なぜ俺は「こんなところ」に?
思い出して欲しいのだが、chocoxinaはほんの数分前まで山の中にいたはずだった。
それが、たかが数分エレベーターに乗ってぼんやりとしていたら、いつの間にかこんな小綺麗な住宅地にいる。
ギャップがすごくないすか
自分の脳がこの脈絡のなさについて来られないのを感じながら、俺は確かに自分の意思で来たはずのこの場所を、どこか「迷い込んでしまった」ような気持ちで歩いた。
また、この時感じた違和感には別の事情もあって、この家々の外壁の色味や、軒先の植え込みのちょっと気の利いた感じ――これが私事で恐縮なのだけれども、実家の近所の住宅街にそっくりなのだ。
(夢の話に続いて伝わらない話で恐縮です。改めて空でも眺めてください)
ともかく、この時のchocoxinaにしてみれば、トトロの世界のような山の中から、近未来施設の悪夢エレベーターに乗って、パラレルワールドの実家に迷い込んだようなもので、それこそ風邪をひいて夢でも見ているような気分だった。
(ちなみに、あとで調べてみたところ、このコモアしおつの戸建て販売が開始されたのは1991年とのこと。その前後に開発された住宅地やその近所に住んでいる方なら、このときchocoxinaがコモアしおつに感じたデジャヴを共有していただけるのではないだろうか)
混乱を収めるためというか「ここなら何か変わったものを売っていて、それを見たらデジャヴからは開放されるかも知れない」というような気持ちで入ったスーパーマーケットもやっぱり普通だったので
完全に目的を見失って「おひるごはん」「おやつ」「普段から集めてるシール付きウエハース」と、うっかりガチの買い物をしてしまった。
また、訪問したのが土曜日の昼下がりだったこともあってか、出歩いている人が少なく、生活音が全くしなかったのも夢っぽさに拍車をかけた。
たまに聞こえる音といえば、数分ごとに大通りを通る車のエンジン音や、春先の風が植え込みを揺らす音くらいで、それ以外は文字通り白昼夢のような静寂だった。歩きながらさっき買ったウエハースを一口かじると、ばりりっ、と場違いに大きな音が響いて、思わず身をすくめるほどだった(それでも結局、中身のシールが気になって3枚全部食べた)。
本筋とは全く関係ないんですが、その時のシールです。
夜の斜行エレベーター
さて、その後は
夢っぽいというよりもむしろレトロなRPGっぽい立て看板を見つけたり
今まで見た「プラザ」の中で最も小さいやつを見つけたり
地元の飲み屋さんで一杯引っ掛けたりしているうちに日が暮れてきたので、そろそろ帰ることとしよう。
帰りはもちろんコモア・ブリッジの斜行エレベーターを使う。
夜の斜行エレベーターは、特に下りともなると、昼のそれに比べて圧倒的に悪夢感が増す。
"暗いところへ落ちる夢や何処までも落ちる夢は、あなたが抱えている問題の根が深く、どんなに頑張っても解決しそうにないことを暗示しています。"
" 死に直面していたり、死ぬことへの恐怖を抱えている場合もあります。"
"悲観的にならず視点を変えるなど大胆な発想の転換が必要です。信頼できる人に相談するのが良いでしょう。"
この夜、chocoxinaは案の定エレベーターの悪夢を見ましたが、皆さんはそうならないよう祈っています。あれ結構怖いので。
後日談
ちなみに、記事中では夢っぽい夢っぽいと書きつつも、訪問時はさすがにもう少し意識もはっきりしていたつもりだったのだが、今になって当時の写真などを見返すと
メモをとる際に「エレベーター」を書き損じる
「これはかなり夢っぽいぞ!」と思いながら全然夢っぽくない信用金庫の写真を撮る
など、結構ガチの夢うつつになっていた形跡があった。やっぱり寝てたのかも知れない。