"偏見"を受け流す令和の格闘技「趣味語り合気道」のススメ
世の中を支配していた「常識」の価値がゆらぎ、各人がそれぞれの「推し」を持つようになった現代。
他人がなにか、自分と縁遠いものを好んでいる、という状況を、多くの人が当たり前に受け入れつつある。
筆者にとっても恩恵を受ける場面は多い。人前で自分のちょっと変わった趣味を紹介するときなど、近年はかつてよりも大分あたたかい目を向けてもらえるようになった。
しかし、いつの世も趣味の世界には、避けては通れない問題がある。
趣味について語るたび、常に我々は「ちょっとした偏見」に晒されるのだ。
ある人は会話を途切れさせないための一つの手段として。またある人は、人に耳を傾けるよりも自ら話すことを強く好む性向の結果として。彼らは我々の趣味に関して、小さな、しかし無視できない偏見を示してくる。
我々には、そんな偏見から自分の心と趣味を守るため、彼らを適切にいなし、スムーズに誤解を解く技術が求められるのだ。
本稿は、そうした平和な趣味語りのために必要な知恵およびその実践を「趣味語り合気道」と名付け、試合を通じて読者にその知見を共有するものである。
やるぞ
ネット上で有志を募ったところ、幸運にも3人の趣味人に協力を得られた。
いずれも自らの趣味に関して多くの偏見に触れてきた者たちであり、そのたびに自らの合気を鍛え上げてきた経験を持つ。
選手紹介
実は企画趣旨を分かっておらず、タダ酒が飲めると聞いてやってきた。
実は企画趣旨を分かっておらず、人に悪口を言えると聞いてやってきた。
実は企画趣旨を分かっておらず、甘いものが食えると聞いてやってきた。
この記事を書いている人。企画趣旨をちゃんと説明していなかった。
今回は筆者を含めた4人で相互に「趣味を語る『受け手』」と「攻撃を行う『暴漢』」を務め、交互に実戦形式の組み手を行うこととする。
大まかなルールは以下の通りだ。
- 受け手は自らの趣味を開陳し、暴漢役はその趣味に対して偏見をぶつける
- 受け手による、相手の偏見を正す力、誤解を解く力、その場の和を乱さない力を競い合い、合議で勝者を決める
- 勝負中に出てくる偏見はもとより、趣味に対する受け手の見解についても、他の選手や読者はなるべく文句を言わない ※格闘技の試合を暴力だなんだと騒ぎ立てないのと同じである。ゆめゆめ遵守お願いしたい
1st challenge
最初の挑戦者はキョウ。
メンバー中最年長かつ一児の母だが、今年になって新たな趣味として大喜利を始めるなど、趣味人としてのバイタリティは高い。
始める前にキョウさんにはこちらを。
強いストレスがかかった際には、ぜひこちらを「にぎにぎ」なさってください。
そして暴漢役の皆さんにはこちらを。
ぜひ普段の関係を解き放って、過去に偏見をぶつけられた憎しみをキョウさんにぶつけてください。
「「はい」」
怖すぎませんか。
競技に「遠慮」を持ち込まないための配慮です。ご理解ください。
見方によっては「実戦」よりも厳しい環境だが、どうにか普段通りのパフォーマンスを発揮してもらいたい。
それでは行きます。
私の趣味は……
特撮です!
「「「特撮ぅ~~~???」」」
(特撮ってなに?)(ほらあの、なんとかレンジャーみたいな)(えぇ……)
(子供が見るやつですよね?)(まあでも、最近はイケメン俳優目当てで見る人もいるみたいですよ)(それもちょっとなあ……)
まあまあみなさん。
キョウさんの家にはお子さんがいらっしゃるわけですし、子守りのついでにちょこっと見てるだけですよね? まさか大人が、なんとかレンジャーにハマってないですよねぇ?
――それがですねぇ、
本当に好きなんですよ。
特撮ってもちろん子供向けに作られたものなんですけど、みなさん子供の頃に特撮見て、ストーリーなんてほとんど覚えてないじゃないですか。
当時の我々って結局「レンジャーと怪人が戦っててカッコイイ」しか見てなかったんですよ。
もちろん制作者は、だからといって手は抜いてないんですけど。大人になったときにいい形で思い出してもらえるようにストーリーにもこだわってます。
そういうこだわりをリアルタイムで味わうなら、特撮ってむしろ大人になってから見たほうがいいんですよ。
そんなもんですかねぇ?
たとえば今やっている「王様戦隊キングオージャー」のヒーローたちは、全員一国の王、っていう設定なんですけど、
へぇ。今ある王国っていうと、イギリスとかブータンとかですかね。
「それそのもの」じゃないにしても、実在の国がテーマなら政治問題とかにも触れられそう。
どういう国が出るんですか?
いやあの、パソコンが得意な国とか……
パソコンが得意な国ってなんだよ。
子供騙しじゃねえか。
現代ならどこも得意であれよ。
その国が「ンコソパ」っていうんですけど、
人をバカにすんのもいい加減にしろよ。
もちろん、これは子供に合わせた戯画化ではあるんですけど、その「ンコソパ」ではちゃんと大人が共感できるような「IT企業あるある」が出てくるんですよ。ほかの国とのパワーバランスが「下請け構造」になぞらえてあったりとか。
生々しいな。
子供がゴッコ遊びで「下請けなんか嫌だ!」とか言ってパパのこと傷つけそう。
そういう細かい部分だけじゃなくって、今年でいう「王様」みたいな、毎年変わるテーマに絡めたストーリー展開の巧みさとか、子供にも分かるくらいシンプルだからこそ大人にも刺さる熱い友情ドラマとか、そういうのがたまらないんです。
イケメン俳優ももちろん出てくるんですけど、最近はメインキャラに血の繋がってない子どもを連れた30代が出てきて「頑張る大人」の姿を魅せたりしてますし、なにか特定の層に媚びてるみたいな感じじゃないですよ。
(へぇ……)
私は全体通して雰囲気の明るい「戦隊モノ」を中心に見てるんですけど、ダークなものが好きなら「仮面ライダー」シリーズから見てみるのもいいと思います!
今回のポイント
一番手ながら、警戒心を持たせない佇まいと落ち着いた語りで「布教」にまで手をかけたキョウ。
- キャッチーな要素で注意を惹く
- その趣味のどこが好きなのか、きちんと言葉にする
- 臆せず堂々と話す
など、趣味語り合気道の基礎を堅実にこなした点も高く評価すべきだろう。
「特撮」の語源でもある特殊撮影のカッコよさに触れられなかったのが心残りなんですが、特撮を見る際はぜひそのあたりも注目してみてください!
2nd challenge
2番目の挑戦者は寿司ブルドーザー。
ハンドルネームの由来を聞いたところ「『お寿司好き好きブルドーザー』から取った」とのこと。そもそもそれがなんなんだよ。
私の趣味は……
プロレスです!
「「「プロレスぅ~~~???」」」
(こわ~い)(野蛮……)
読者の方も怖がっちゃうんじゃないですかぁ?
一応、注意書きは入れておきますか。
※注意
実際、今回は「痛い話」がかなり出てくるので、苦手な方は「森林の画像」が出てくるまで薄目で飛ばしてください!
というわけで寿司ブルドーザーさん、どうぞ。
はい!
みなさんは、プロレスとか格闘技って見たことあります?
(「野蛮」についてはあえて否定しないか……)
全然ないです。
プロレスねぇ……
自分が10代のころはK-1ブームがあったんで、格闘技自体はちょこっと見てましたけど、それと比べてどうなんですかプロレスって。
ほら~~~あの、台本? があるって言うじゃないですか。そういうのってやっぱりリアルじゃないっていうか。
スミマセンねぇ痛いとこ突いちゃって!
さっきからなんなんだこいつ。
――実際それってよく聞かれるんですけど、
私はまず、専門用語で「ブック」って言われるような台本は無いと思ってて。ただ仮にブックがあったとしても、リングの上で、選手が技を食らって叩きつけられたり、関節を極められたりしたときに感じる「痛み」自体は本物なんですよ。
そもそもレスラーって、台本どうこう以前にベビーフェイス(善玉)やヒール(悪役)みたいな役回りとか、アイドルキャラ、カリスマキャラみたいな設定をそれぞれ背負ってるんですけど。そういう設定ってぜんぶリングの上で、パイプ椅子で殴られたり、口にガラスが入ったりするような痛みの中でだけ示されるんですね。
ヒッ
興行によっては、リングの上に画鋲がバラ撒かれていることもあるし、富士登山の後に山頂で行われることもあります。そんな状況でもアイドルらしさやベビーフェイスらしさを保ってたりとか、あるいは事前の取り決め通りに試合ができるんだとしたら、それってもう選手の「本質」じゃないですか。
プロレスは他の格闘技と比べて「本当の格闘技じゃない」みたいな言われ方をすることもあるんですけど、むしろプロレスでしか見られない「本当」もあるんです。
その……なんか今「画鋲が撒かれた」とか「ガラスが口に入った」とか聞こえた気がしたんですが。
文字通りの意味です。画鋲を撒いたリングでブーツを脱いで戦うこともありますし、蛍光灯を咀嚼する人もいます。足の裏や口の中って鍛えられないので、相当痛いはずなんですよ。
そういうハードな試合を最前列で見てると、血や汗の匂いとかリングの揺れ、頚動脈を締められた選手の顔色がサーっと青ざめていく感じとかが、ナマで、クるんです。
(怖……)
寿司ブルドーザーさん、普段から自分でも人殴ったりしてませんか?
してません! 同意のない暴力はダメです! 蛍光灯だって、選手は誰に強いられるでもなく食べてますからね。
それは本当になんで?
ともかく実際、そういう試合を近くで見てると本当に怖いんですよ。でもやっぱり、その上でしか見られないドラマが見たいんですよね。
ちょっと話が逸れるんですけど、むかしAKBのじゃんけん大会ってあったじゃないですか。次の「センター」を決めるやつ。
あああの、ずっと同じ手を出した娘が優勝するやつですね。
そう! あれも当時は「ブック」があったんじゃないかって言われたりして。
ただ考えてみてほしいんですけど。仮に自分があの大会に出たとして、3回戦あたりで、センター常連のメンバーに当たるとするじゃないですか。
そのメンバーは、ここまですべてグーで勝ってるとします。その場の勝負に勝ちたいだけなら、まあパーを出せばよくて。
だからこそ、そうしなかった娘たちが疑われたんですもんね。
でもその勝負をどう魅せるか、自分のやることにどう「説得力」を持たせるかって考えたら、簡単じゃないんですよ。ポッと出のアイドルが誰にでもわかることをして勝ちました、ってだけの結果になったら、むしろ負けた方の潔さが評価されるかもしれない。
そこまで考えての勝負なら、ブックがなくてもチョキを出すことだってありえるんですよ。
もしそこでチョキを出して勝てたら、相手の弱さを突いた、っていう箔が付きますね。
プロレスも、そういう説得力の勝負なんです。グーだけ出す人に負けたからって本気でやってないわけじゃないし、仮に負ける取り決めがあったとしても、説得力さえ出せれば破っちゃっていいんですよ。実際プロレスだと、ブックを破った、つまり取り決めと違う結果になったって噂のある試合が、名勝負として語り継がれてたりしますし。
破っていいブックなら、見る方としてはあってもなくても関係ないんですよね。説得力の魅せ合いと、その上で流れる血や汗や選手のリアル、私たちってそれを見に行ってるんです。
今回のポイント
ハードな話題で暴漢役の筆者らをドン引きさせつつも、確かな熱量と偏見への回答を力強く示した寿司ブルドーザー。
- 好みの分かれる部分を誤魔化そうとしない
- 楽しみ方を伝えれば、共感はともかく理解は得られる
- プロレスとアイドルに共通点が見いだせるように、趣味人同士は通じあえる可能性がある
など、コアな趣味を持つ者にとっては、今後の「実戦」のために大きな洞察の得られた組み手だったのではないだろうか。
かなり怖かったんですけど、だからこそハマるんだろうな、というのは伝わりました。
私は自分で暴力振るったりとかはしないんで! そこだけは覚えて帰ってください!
休憩
3rd challenge
続いての挑戦者は首上オープン(スガミオープン)。
「首上」と書いて「すがみ」と読むのはどこか地名由来なのかな? と思って聞いてみたところ「オリジナル」とのことでした。そんなことしていいんだ。
えー私の趣味は……
「魚」です!!!
「「「魚???」」」
えっと……魚をどうするのが好きなんですか?
主に見るのが好きですね!!! 見るためだけに川や海に行くこともあります! もちろん水族館も好きで、日本中巡ってます!
1番ピンと来ない趣味なのに、1番熱量すごいな。
なるほど、水族館ね……
でも水族館ってさあ、そんなに面白いかね? 魚なんか基本泳いでるだけなんだし、どの施設見ても大差ないだろ。
もちろん俺だって、なんとなく綺麗だなぁとは思うけど、何度も何箇所も行くようなもんじゃなくない?
そういう意見もたまに聞くのでですね、
私、プレゼン用の画像を常に出せるようにしてあるんですよ。
流れ変わったな。
「隠れた傑作アニメ」が好きな人の熱量だ。
たとえば、私の地元にある大洗水族館だと、ナヌカザメっていうサメが有名なんですけど。これっていうのが、なんでも食べるし一年中繁殖できるし、なんなら陸に揚げても数日生きてた記録があるっていうくらい、ものすごい丈夫な魚なんですね。
ナヌカザメは別に日本の周りならどこにでもいるし、設備があれば飼育も難しくないですけど、彼をしっかり取り上げて、こういう生態がちゃんと分かるような解説をつけてくれる水族館って、大洗以外にはあんまり無いんですよ。
全国どの水族館も、力を入れている展示は違うんです。大洗はナヌカザメ以外にもサメに力を入れてますし、富山には「ハギ」の仲間に詳しい水族館もあります。 全国の水族館を回るようになると、日本海側と太平洋側で展示してる個体に傾向があることなんかもわかってきますし、飽きないですよ。
この人よく見たら、魚のシャツ着てる……
いつの間にかテーブルに「推しグッズ」が増えてますし。
オタクのオフ会じゃねえか。
そうだ! 私の1番推しの魚がいて、この「アカマツカサ」っていうんですけど、
知らなすぎ。
その名前どこで区切るんですか。
※赤くて松かさ(松ぼっくり)みたいな魚、という意味なので「アカ」で区切るようです
Wikipediaにもいないぞ。
いいから見てくださいよこの死んだ目。教室の隅でクソだるそうに授業受けてる男子みたいな。私アカマツカサの顔ファンなんですよ。
魚にも顔ファンいるんだ。
(ちょっと、このままだと本当にオタクのオフ会になっちゃうんで、誰か攻撃してくださいよ)
!
――えーっと、お魚、お好きなんですねぇ。顔はまあ好みがあると思うんですけど。
ただ魚って、犬猫みたいに感情出してくれないし、可愛がっても「甲斐」がなくないですか? 表情も変わらないし……
キョウさん。
そこがいいんですよ。
そもそも感情って必要なんでしょうか。我々人間なんか生きてて辛く悲しいことばっかりですけど、それだって感情があるせいですよね。
ラスボスみたいなこと言い出したな。
なんか嫌なことあった?
感情なんか持っていたって、不幸なだけなんですよ。私としては、愛玩する相手に感情なんて持っていてほしくないですね。
なんでだよ。生き物は痛みを受けて感情むき出しになっている姿こそ尊いだろ。
それもどうなんだ。
あと魚って、感情がないこと以外にも人間より優れてるんじゃないかなって思うところがあって。たとえば一部の魚は、まず全員オスとして生まれて、群れの中で一番大きい個体がメスになるんですよ。
人間から見たら奇妙ですけど、別にオスとメスが一対一じゃなきゃいけないとか、途中で性別を変えちゃいけないなんて決まりはないですからね。もし人間の村でメスがいなくなったらその集落は滅びますけど、こいつらは残った個体から新たなメスが生まれますから、状況によってはこいつらの方が強い。
第一人間なんて、たまたま賢いおかげでいろいろ問題を解決できましたけど、種としては不具合だらけじゃないですか。変に頭が大きいせいで出産もめちゃくちゃ痛いらしいですし。
それは本当にそう。
子持ちの説得力すご。
私はあの、魚が好きっていうか、
魚になりたいんですよ。
やっぱりなんか嫌なことあった?
感情も、出産の痛みも、原初の生命が陸に上ったばっかりに背負ってしまった「業」じゃないですか。私はそんな業のない生き物になりたいんです。
いいんですかそんなこと言って。ウツボに噛みちぎられる哀れな魚として生を終えるかもしれないんですよ。
食物連鎖の輪に入れるなら、それも本望ですね。
今回のポイント
若々しさと熱量で暴漢を圧倒しつつ、それだけでない「魚趣味の深淵」も魅せてくれた首上オープン(スガミオープン)。
一見趣味語りの状況としてはレアケースのようでもあるが、
- 相手が「なにその趣味」と戸惑っているうちに熱量を浴びせれば、会話の主導権を握れる
- 性癖や嗜好をあけすけにして本音で話せば、少なくとも誤解は受けない
- 人生を明るくするのが趣味の役目なら、自ずと趣味語りは人生の暗部をつまびらかにする
などの点は、覚えておけば役立つ機会も少なくないだろう。
まだまだ紹介したい魚がいるんで、ぜひ第二回やってください!
考えておきます。
さいごに
ここまで「趣味語り合気道」と称して、偏見をかいくぐりながら趣味を語る試みを紹介させてもらった。
せっかく趣味の話をするなら、なるべくその場が双方にとって豊かな時間となってほしいもの。
本稿が「推し」の布教や、あるいはオタク同士の相互理解の一助になればと思う。
また今回は「偏見」をテーマにしておきながら安易に「合気道」を喩えとして用いてしまったが、もし合気道を趣味に持つ方がいれば、ぜひ筆者にその魅力を紹介していただければと思う。
なお、優勝者については、参加者の合議によって「プロレス」をプレゼンした寿司ブルドーザーに決まった。
暴力や痛みなど、必ずしも万人に理解されない要素について誤魔化すことなく語りつつ、かつ「定番」の偏見を見事に乗りこなした点が評価されたようだ。
おまけ
ここからは、とある理由で「ボツ」にせざるを得なかった、筆者の組み手を紹介したい。
さあさあ、今までたくさんひどいこと言ってきましたけど、あくまで競技ですから! 私の番には遠慮なく言ってくださいね。
さて、私の趣味なんですけれども、
……
あの、これから「自分の番」をやりたいなと思ってるんですけど。
「――はい」「どうぞ」
まあまあまあ、安心してください。そんなにマイナーな趣味じゃなくて……
なるほどですねー。
プチハンバーガーおいしー。
甘いメニューが多いんで、しょっぱいの嬉しいですね。
……あのこれ、画像もあるんで見ていただいて……
「待ってこのマカロン、ファミチキみたいな味する」「うそ」「ちょっとわかる」「変わったスパイス入ってるね」「あと食感が揚げ物みたい」
……
今回のポイント
- 自分に興味を持たれていなければ、そもそも偏見さえ言われない
- 逆に言えば、偏見をぶつけられるのは興味を持たれている証拠なので、あまり邪険にすべきではないのかもしれない
- そうは言っても、あまり人に偏見ばかり言うとこのように嫌われる
最後にこの3点だけお伝えして、本稿の結びとさせていただく。
「診療時間表」に見る医者の人間らしさ
医者はこわい。
ちょっと血かなんかを見ただけでこちらが日々酒浸りであることを見抜いてくるし、針や冷たい板や苦い粉で攻撃してくるし、さらに相手によっては、こちらが「風邪ひいたみたいで」とつぶやくだけで機嫌を損ねさえする(なぜなら風邪かどうか判断するのは医者にのみ許された高度な仕事なので)。
そんな「無機質な白衣で屹立(きつりつ)する高学歴」こと医者であるが、彼らの存外に人間らしい一面を、いわゆる町医者の軒先で見ることができる。
診療時間を見やすく記した表。
これというのが、一つひとつ見比べてみると単にバリエーションに富んでいるだけでなく、デザインから何から、今この姿に至るまでに介在したであろう人間のさまざまな思いが感じ取れるのだ。
一つ見ただけではピンと来ないだろうから、これからいくつか紹介しよう。
(以後、歯医者や動物病院などなどの診療時間表についても、特に区別なく紹介していく)
「修正」に見る価値観
まずわかりやすいのは、完成した診療時間表に、後から「修正」がほどこされているパターンだ。
せっかくそれなりのお金をかけて印刷したであろう診療時間表を修正する、というイレギュラーに相対したとき、見た目にこだわるのか頓着しないのか、そもそも失敗と断じざるを得ない状況になってしまうのか。こうした対応の違いには、院長の個性や診療に対する態度さえ垣間見えるようだ。
個人的には一番最後、カレンダーを掲示するタイプの病院に温かみを感じるし、ぜひ診療してほしい、と思うのだが、あいにくここは動物病院。
どうにか筆者のような資本主義の犬も診てくれないだろうか。
透明なガラスへの非合理的なこだわり
そもそも、だ。
開業医として一生を過ごすつもりであれば、そのキャリアの中で働ける曜日や時間はいかようにでも変化しそうなもの。
それならば、診療時間表は始めからもっと「後から修正が利くつくり」にしておけばいいのに、と思わないこともない。
ただどうやら、あの修正しにくそうな構造の背景には、つまらない合理性などではない「何か」が優先された、人間らしい選択があるようなのだ。
ここまでにもいくつか見たような、透明なガラスに描かれた診療時間表。
だがよく見ると、
表面はなんと不透明。そこに文字だけでなく影まで印刷することにより、ガラスが透明であるかのように見せかけているのだ。
わざわざこのような表現を選択しているのはおそらく、開業医の間で「診療時間表といえば、透明なガラスに白か黒の文字で描かれているもの」というコモンセンス、あるいは流行が共有されているためだろう。
この仮説を補強する例が他にもある。
これもよく見ないと詳細がわからないかと思うのだが、採光性の高そうな透明なドアに白文字で診療時間表が描かれており、しかしそれでは見にくかったためか、後ろにグレーの布が後付けされているのだ。
一つのガラスに「光を通す」ことと「光を反射させ、描いてあることを目に届ける」ことを両立させようとしたらこうなることは予測できたはず――とまでは言わないが、もしここの院長に、診療時間表はガラスに描くもの、というこだわりが備わってさえいなければ、この不幸は免れたのではないか、と考えさせられる。
例外処理に見る、個性と機転
これまで多く見てきた「縦軸に診療時間、横軸に曜日」のフォーマットは、その時間・その曜日に診療をしているか・していないかを一目で判別することができる。
ただ一方で、それ以上の込み入った情報をこの体裁で示すためには、ちょっとした工夫が必要になる。
最後のやつなどは、二軸の表に納めるよりももっと適切な方法があるのではないか、と思うのだが、これももしかすると「診療時間表とはこういうもの」という固定観念によってイノベーションが阻害された結果なのかもしれない。
医者、こわくないかもしれん
診療時間表を詳しく見ていくことで、泥臭い手作業や、常識・流行にとらわれた非合理など、図らずも「医者のカワイイところ」を見出すことができた。
多少健康に気を使っていても運が悪ければ容赦なく医者にかからされかねない昨今、これを機になるべく偏見を持たずに接していきたい。
偏見を持たないどころかむしろ感謝すべきである、という意見についてはまったくその通りだと思います。
chocoxinaが2022年にハマったコンテンツ
エルデンリング
フロム・ソフトウェアのアクションRPG。ソウルシリーズにオープンワールドを導入した大作である。
とにかく圧倒的な物量によって「大冒険」を演出してくるゲームで、新しいところに行けば新しいものがある、という原初の喜びが100時間絶えることなく続く。各ボスやダンジョンの攻略難易度がやたら高い点も「ここは一旦置いて他のところを見よう」という動きを誘発しやすく、冒険と戦闘のループがプレイヤーをつかんで離さない。
そもそも戦闘も「まったく何をどうしたらいいのかわからない」という状態には陥りにくく、繰り返し負け続けるなかで成長を感じやすいデザインになっているので挫折はしにくいだろう。聞くところによれば、これまで同社が手掛けてきたゲームよりもバトルに勝ちやすい仕組みが充実しているようだ。
キャラクターが世界観重視の迂遠な言い回しをするせいで進行に迷いやすい、などの問題もあるが、そうしてまで守られているハードファンタジー的な雰囲気は大いに体験する価値ありだ。
筆者は購入してからしばらく、生活に影響が及ぶレベルでのめり込んでしまったので、可能なら冬休み中に済ませてしまうべきだろう。
プロジェクト・ヘイル・メアリー
SF小説。「#火星ひとりぼっち 」のバイラルマーケティングが記憶に新しい映画「オデッセイ」の原作者が送る最新作だ。
太陽からエネルギーを吸い取る謎の微生物「アストロファージ」による地球の寒冷化に対処すべく、宇宙船で一人奮闘する男の物語である。
さて、映画オデッセイの原作「火星の人」といえば、執筆時点でギリギリ実現可能だった技術、あるいは少なくとも可能に見える技術だけを使って「男が一人火星に取り残され、しかも最終的に帰ってくる」という壮大な物語を成立させた傑作だ。
プロットは基本的に「火星に取り残された男が直面する問題と解決策」の繰り返しなのだが、「なぜかNASAのすべてを知っているオタク」こと作者のアンディー・ウィアーが持てる知識を総動員することで、圧倒的なリアリティと予想もつかない展開を実現している。
それを成し遂げた作者が、「アストロファージ」というひとさじのフィクションを手に入れたらどうなるか。それはもう物語が加速度的に壮大になるのである。
太陽系を超えた銀河規模の危機に、銀河規模の解決策。問題そのものであったはずのアストロファージが問題解決の重要なファクターになり、地に足のついた展開の積み重ねが、読者を半ばファンタジーのような結末に導く。
主人公があらゆる科学的・数学的知識を総動員して問題に対処する様子は知的好奇心を刺激して心地よく、主要キャラも魅力的だ。
Splatoon3
人に変身できるイカがインクをかけ合って戦うNintendo製TPSの最新作。
ドパドパと音を立てながらインクをぶちまける快感はシリーズ通して健在。3になって特別大きな新要素が追加されたわけではないのだが、発売時期が仕事の暇なタイミングと被ってしまったためそれはもう狂ったようにプレイした。
チームの人数差が見やすくなるなど細かな改善が効いており、シューターゲームの楽しさを味わい安くなっている点も、のめり込みぶりに拍車を掛けたかもしれない。
最初のシーズンにS+50までランクを上げて以降、今月はややモチベーションが落ち着いたからかパッとしないXパワーのままあまりプレイしていないのだが、ここからもう再開すべきではない気がする。
プレイヤー間で広く言われていることなのだが、このゲームをプレイしているとどうにも味方の問題が目につきやすく、読者の皆様には到底聞かせられないような暴言を吐きながらコントローラーを振ることになるのだ。
RRR
インド発のアクション映画。バーフバリでおなじみのS・S・ラージャマウリ監督が、1920年代、大英帝国支配下のインドを舞台に男二人の使命と友情を描く。
ほぼ3時間にわたる上映時間の間ひとときもダレることなく刺激的で、筆者は人生で初めて同じ映画を劇場で2回見ることになった。
他に類例のないド派手なアクションシーケンスが連発されるこの作品。ネット上では、普段あまり見ない種類の映画から自分の価値観を守るためか、しばしば「ツッコミ所も多いけど勢いがあって面白いから好し」などと評されることも多いのだが、丹念に見てみると、各シーンにはしっかりと「振り」が効いていて「かっこよさ優先で捨て置かれた不整合」みたいなものが見当たらないことに気づく。
インド映画っていえばアレでしょ、という形で言及されがちなダンスシーンも、本作では「絶対に踊らなければいけない」状況を積み上げた上で見せられるし、最終盤のバトルシーンで矢が尽きないことにすらきちんと理由付けがなされている。そこらの洋画で「弾の尽きない銃弾」が当たり前に使われていることを鑑みれば、RRRを「ツッコミを入れながらワイワイ見るもの」として消費する姿勢はフェアなものとは言えないだろう。
もっともRRRは、そういった小難しいことを考えなくとも楽しめる作品ではある。王道ながら目の話せないストーリーに、屈強な主人公二人のブロマンス、コンセプトアートみたいな絵面がそのまま顕現するバトルシーンの数々が、三時間の間休むことなく浴びせられる。
映画館各所が軒並み戸締まりされてしまった影響か上映の機会が少ないが、まだまだ見られるので冬休み中に時間を見つけて鑑賞してほしい。
TUNIC
かわいい小狐が小さなマップを駆け回るクオータービュー型のアクションRPG。「ソウルライクゼルダ」と評される、謎解きと高難易度アクションを特徴とするゲームだ。
大きな特徴は「ゲームプレイを通じて、そのゲーム自身の説明書を集める」という要素。プレイヤーはかろうじて「スティックを倒すとキャラが動く」ということだけがわかる状態から、ゲーム自体の目的や思いもよらない操作を見出していくことになる。
TUNICは普通のゲームと同様、新しいアイテムを入手すればできることが増えるし、ちょっと探せばすぐに見つかる塩梅の隠し要素も備えている。そこに「説明書を見て新たな操作を知る」というこのゲームならではの要素が組み合わさることで、TUNICをプレイすると「進行度に応じて、マップの同じ場所が全く違うものに見える」という体験を繰り返し味わうことができる。
アクションの難易度については、ゲーム全体の体験に対してややちぐはぐな印象を受けないこともないが、プレイしていて楽しいものではあるし、オプションから無敵モードを使って省略することも可能だ。なるべく気負わず、思わずペンとメモを取りにいくことになるトゥルーエンドまで突き進んでほしい。
キングスジレンマ
レガシー型(ゲームの結果が次回以降に引き継がれるタイプ)のボードゲーム。各プレイヤーはそれぞれ異なる貴族の代表として、数世代に渡り国政に関するさまざまなことを投票によって決定する。
例えば、国民が飢えに苦しんでいるとき、他国から売り込まれた奇妙な色の小麦を輸入すべきだろうか。提案を可決した結果王国に奇妙な疫病がはびこったとしても、逆に否決して国民が飢えに倒れたとしても、議決にあたってイニシアチブを握っていた貴族は歴史に名を残す(残してしまう)ことになる。
各プレイヤーはこのような厳しい決断を繰り返しながら、十数回に及ぶプレイの果てにたどり着く何か(説明書によって軽く示唆されるのみで、詳細は最終盤まで明かされない)に備えて、議会での影響力を拡大していくことになる。時には国の情勢や短期的な権力ばかりでなく、自らが属する家系の思想信条を優先すべき時もあるだろう。
ゲームの基本となる投票のシステムにしっかり小技が効いていて、すべてを投げ打ってでもこの議題は可決したいだとか、否決はしたいが責任は別の家系に負わせたいだとか、そういった高度な目標を実現するために各プレイでしっかりと考えどころが発生して飽きが来ない。倫理観や正義感を問われるハードな議題に対処する面白さや、おぼろげに見える最終目標に備えて中長期的な立ち回りを検討する戦略性など、このゲームならではの魅力が多い作品だ。
プレイのハードルが高い(4人前後のメンバーを合計15時間程度拘束する)ためか国内では値崩れ傾向だが、逆に言えば始めるならば今がチャンスである。