「ジョニ黒」をお菓子で再現する
近頃ウイスキーばかり飲んでいる。
40°という強力なアルコール度数のそれをストレートでちびっ、と口に含むと、なんというかこう、どう美味いかと形容するのが難しいのだけれど、なんかとにかくいろんな味がして美味いのである。
で、chocoxinaなんかとは違う好事家のオトナたちは、もちろんあの高級な命の水を「いろんな味がして美味い」などと雑にくくったりはせず、そのいろんな味をあらん限りの語彙をもってテイスティング・コメントとして記録している。
そこで使われる表現はさまざまだが、例えばあるウイスキーは「スモーク、スパイス、タンジェリン、トフィー、バニラ、アーモンド」の味がするらしい。
ただそれって、ウイスキーというよりほぼお菓子ではないか。
ジョニ黒の話
(Toffeeと書かれた下にキャラメルの説明があるのは日本向けのローカライズだろうか)
ジョニーウォーカーには原酒の熟成年数などに応じてさまざまな種類があるが、今回取り上げるのはその中の「ブラックラベル」である。聞き覚えのある方もいるかと思うが、ジョニーウォーカーのブラックといえば昔のアニメで波平やいじわるばあさんが大事にしていたいわゆる「ジョニ黒」のことである。
家にあるジョニ黒の小瓶。昔は700mlで数万円?もしたそうだが、今は小瓶ならワンコインだ。
このジョニーウォーカー、初めて飲んだときは結構ヘビーな味わいで面食らったのだが、先程のテイスティングコメントを踏まえて飲んでみるとぐっと美味く感じられる。
アルコールのカッとした感じと一緒に広がる爽やかさは確かにタンジェリンっぽいな、とか、飲み込んだ後に上顎に張り付くような甘さは確かにトフィー……はよく知らないけどキャラメル的だな、とか、今まで口の中を自由に走り回っていた味たちが朝礼台の前に背の順で並んでくれたように、一つひとつの顔がはっきりと分かる。
こうなってくるともう以前の感覚に戻れないのが人間というもので、かつてあんなに煙たくて暴力的だったウイスキーがもうお菓子のようだとすら思えてくる。
それこそ「テイスティングコメントの材料でお菓子を作ったらジョニ黒味になるのでは?」とか考え出すくらいにだ。
そういうわけなので、作っていきます。
製作
ここで改めて、ジョニ黒のフレーバーを表す六要素は「スモーク、スパイス、タンジェリン、トフィー、バニラ、アーモンド」だった。
トフィー(砂糖とバターを煮詰めてつくるキャラメル的なキャンディのことらしい)というのが何物なのか当時は見当もつかなかったので「なんかハイソなお菓子っぽいし」と成城石井に行ってみたところ、案の定バッチリ売っていた。しかもアーモンド入りのちょうどいいやつだ。
(1000円近くしたけど。さすが成城石井だ)
これに他のフレーバーを足していこう。
タンジェリン代わりの普通のオレンジジュースと、シナモン、バニラエッセンスを
フライパンで煮詰める。
家でお菓子を作ることがあまりないので「このフライパン、さっき餃子焼いてたやつだけど大丈夫かな」などと余計なことが気になってしまう。
そうして部屋中に「漠然とうまそうなお菓子の匂い」を漂わせながらこってりと煮詰まったオレンジジュースを、皿にうやうやしく並べたトフィーにかけると
「アーモンドトフィーのスパイシーオレンジソース」とでも言うべきお菓子の完成である。
……なんだかこう、景物の異様さ(固いお菓子にゆるいソースがかかっている)にカメラの具合が相まって、前衛芸術やシュルレアリスムのような写真が撮れてしまった。
「怠惰な邂逅」 猪口 才那 2017年
ところで、このお菓子に「スモーク」の要素が全く入っていないことに気付いた読者様もおられるかと思うが
作っている最中の自分は全く気が付いていなかったので、食べる際には家にあったお香を焚くことでスモーク感を追加しようと思います。
実食
なにはともあれ実食してみる。
表面をぬらぬらとさせたトフィーを口に放り込むと、まずオレンジの爽やかさがきて、やがてアーモンドトフィーの甘さが残る。よく味わえばバニラやシナモンの香りも感じられ、お香も焚かないよりマシ程度にスモーキーさを演出する。
強いて言えばオレンジとトフィーがあまり馴染んでおらず、全体的にどこか空虚な感じがするのだが、字面だけ見る分にはかなりジョニーウォーカーである。顔は似てないのに雰囲気が伝わる関根勤のモノマネみたいな感じで、「そっくり!」とは到底言えないけれど「わかるわかる!」と言いたくなるような味だ。
せっかくなので本物とくらべてみよう。
「高校生が考えたデキる男の休日」みたいな写真が撮れたぞ
交互に味わってみると「似てないけどわかる」という感覚がより強固になる。
お菓子とウイスキーの味を比べようとすると、自ずと「お菓子をつまみにウイスキーを飲む」かっこうになるのだが、結構主張の強い味のものをたくさんつかった今回のお菓子が、以外なほどウイスキーの邪魔をしないのだ。
また反面、それぞれいい具合に味の傾向が近いために両者の差、特にウイスキー側の良さが際立つ。
テイスティングノートに記載されない「ウイスキー味」「アルコール味」としか形容しようのない部分が、ウイスキーの深みというか、個々に際立つオレンジやトフィーの足元を支えていたんだなあ、ということがわかってくるのだ。
結び
そんなわけで今回の実験、完全にジョニ黒味のお菓子は作れなかったが、関根勤がジョニ黒のモノマネをしたような面白いツマミを作ることができた。
これ、いろんなウイスキーを「テイスティングコメント菓子」で飲んでみたら面白いかもなあ、とも思ったのだが、手元にある別のウイスキーは「シェリー」だの「ピート」だのやたらと入手困難なものを要求してくるので、次回以降の課題とさせて頂きますね。
といったところ、もう書くこともなくなったんですが記事として落ちが弱いので、作ったお菓子のテイスティングコメントを載せて終わりにします。
外観:
濃いオレンジ、濁っており、粘性は極めて強い。
香り:
濃密なスモークにオレンジとバニラ。スワリング(ここでは皿を回すこと)すると僅かなシナモン。
味わい:
フレッシュでライト。アルコールを感じさせない熟成感とオレンジの爽やかさ。続けてトフィーの甘さにナッツ。
フィニッシュ:
トフィーとアーモンドの長く深い余韻(噛んで食べると歯に残るから)。
【落ちのない話】そんなにチョコミントが好きか
チョコミント味のものをしばしば食べる。
この時期に食べるチョコミントアイスは美味い。キンと冷えたミントの清涼感とチョコレートのコク、お互いがしつこくなり過ぎないように手綱を引き合うような、均整のとれた味がする。
ところが世間の評判は思うほど芳しくない。歯磨き粉の味がするとかで、親の仇のように嫌う人が多いようだ。 個人的に、チョコミントのことを「歯磨き粉の味」などと言われると、ちょっと待ち給えよ、という気分にはなる。チョコミント美味いやろがい、と言い返したい気持ちもまあ、否定できない。
でも、と立ち止まり考える。自分はそこまでチョコミントが好きだろうか。 チョコミントはわりかし美味しい。だが不当な評価を受けている。その不当な評価に対して異を唱えるうちにいつしか、なんというかこう、自分のチョコミントに対する好意を実態以上に評価していないか。チョコミントに対して"判官びいき"をしてやいないか。
例えばある日アイスが食べたくなって、コンビニの冷凍ケースを開ける。爽バニラを手に取りかけて、スーパーカップチョコミントが目に入る。「俺チョコミント好きやし」と思って持ち替え、帰って一口食べる。自分の口が爽バニラの味を期待していたのを自覚し「なんかチョコミントって気分でもなかったな」という気分になる。そんな経験があった気はしないか。自身の嗜好に対する「チョコミントが好きだ」という認知、俗に言うメタ認知の歪みが、意思決定にマイナスの影響を及ぼしているとは言えないか。
俺はチョコミントのことがどのくらい好きだろうか。爽バニラと比べたら? サーティーワンのポッピングシャワーとなら? 8月に食べるならガリガリ君とチョコミントどっち? そういえばアイスでないチョコミントってどのくらい好きだった? そもそも好きってどのくらいから?
かように深く、深く自己を見つめ直す作業には冷静さが要る。これ以上の考察にはまず心身をスッキリとさせて、糖分を補給したい。チョコミントアイスとかで。
【落ちのない話】ロクヨンのない家庭で育った
chocoxina世代の男子にとって、小学生時代というのはロクヨンと共にあった。
友人の家に集まれば、誰が促すでもなくロクヨンがブラウン管につながれ、集まったうちの数人がその3P、4Pに持ち込みのコントローラーを挿した。マリオ64、マリオカート、マリオパーティ、スマブラ、ゴールデンアイ。時にはたまごっちワールドやF-ZERO Xを遊んだ。どの家でもスマブラのカービィとゴールデンアイの黄金銃は禁止された。chocoxinaはロクヨンのない家庭で育ったので、少し苦い気持ちでその輪に混じった。
スマブラは苦手だった。復帰技を持つキャラをリンクしか知らなかったのでそれしか使わなかったし、そのときうっかり下Bなど押そうものならバクダンの投げ方がわからずたいてい自爆した。スマッシュ技を知らなかったので相手にトドメをさせることはまれだった。
マリオカートはもっと苦手だった。スタートダッシュについてはみな曖昧な説明しかしてくれず一度も成功しなかったし、ドリフトを覚えたのも皆が飽き始めたころだった。レインボーロードを一周する間に5回は落ちた。
ゴールデンアイも大概なものだった。マップ地点など覚えているはずのない自分は主戦場に向かう途中でしばしば道に迷い、誰が設置したかも分からないモーションセンサー爆弾で死んだ。このゲーム中は誰も成績を気にしておらず、どれも馬鹿騒ぎの種になったのは幸いだった。
マリオ64や時のオカリナはついぞまともにプレイできなかったし、そのために話題に取り残されることも多かった。そもそも据え置きハードといえば自宅には元祖プレステとSFC(親戚からのお下がりだ)しかなく、それは実家を出るまで変わらなかった。
今年の三月末、実質十数年ぶりの据え置きハードであるSwitchを買った。
併せて買ったゼルダをプレイしながら友人と感想を語り合い、あれほど苦労した祠の裏技的な解法を聞かされて歯噛みした。人の集まる場所でジョイコンを分け合ってスニッパーズに興じた。本体を持ち寄ってARMSをプレイした。始めて触れるひとにはなるべく簡素に操作の説明をした。今Switchを欲しがっているひとが買えるようにささやかな情報の拡散に努めた。「このハードで出る」という以外なにも知らないゲームの情報を追いかけるようになった。
chocoxinaはいまロクヨンの代わりにSwitchを持ってローティーン時代をやり直しているのである。そんなわけなのでこのところTwitterでやたらとSwitchだARMSだのとうるさいのも多目に見て欲しいという話です。一緒にイカやろ。