追って説明しますが、こちらの画像はツナマヨです。
0.序文
毎日職場に持っていく弁当のため、しばしばツナマヨを作っている。
ツナ缶を開け、油を切り、皿にあけて、マヨネーズと和える。何度もルーチンワークのように繰り返すうち、ある時はたと気がついた。
このツナマヨとかいう料理、かなり馬鹿っぽくないか。
1.なぜツナマヨは馬鹿っぽいのか
過去の私のように、未だツナマヨの馬鹿っぽさに気づいていない皆さんのために説明しよう。
ツナマヨに使われているもの一つずつに向き合うことで、言わんとしていることがおわかりいただけるはずだ。
まずツナ缶について。
もしお手元にツナ缶をお持ちなら、その裏側を見てもらうとわかると思うが、あれはつまるところ「マグロの油漬け」である。
油の中で魚を煮ることで、あの柔らかくジューシーなツナ缶ができる。
ツナ缶の組成を簡単に表すとこうだ。
【ツナ = マグロ + 油】
次にマヨネーズ。
詳細は省くが、マヨネーズの主な原料は油、酢、卵である。
先ほどと同様に書き表すと、
【マヨネーズ = 油 + 酢 + 卵】
となる。
これを踏まえた上で、ツナマヨの作り方を振り返る。
ツナ缶を開け、油を切り、皿にあけて、マヨネーズと和える、だ。
これを式に表すと、【ツナマヨ=ツナ缶-油+マヨネーズ】となるが、ここにさきほど求めた値を代入すると、こうなる。
【ツナマヨ = マグロ + 油 - 油 + 油 + 酢 + 卵】
どうだ、馬鹿っぽいだろう。
ツナマヨという簡単な料理を作るために、やたらと油を足したり引いたりしており、あまりに非効率的だと言わざるを得ない。「一度引いた油を、あとでまた足している」これが馬鹿っぽさの所以である。
2.効率的ツナマヨの探求
さて、前提の共有がなされたところで、掲題の通り、ツナマヨの馬鹿っぽさを知った我々インテリのためのツナマヨについて考える。
義務教育で初等数学を学んだ我々なら知っての通り、ある数aとその加法逆元-aの和は0となる。また、加法単位元である0は、加法によっては他のあらゆる元に影響を与えない。
(これをひらたく言うと「3 - 3 = 0」だし「5 + 0 = 5」だよね、ということである)
ともかくこれを先ほどのツナマヨ式(ツナマヨ = マグロ + 油 - 油 + 油 + 酢 + 卵)に反映すると、以下の通りだ。
【ツナマヨ = マグロ + 油 + 酢 + 卵】
ここで、先述の通り【ツナ缶 = マグロ + 油】なので、より簡単に
【ツナマヨ = ツナ缶 + 酢 + 卵】
と書き表せる。
つまり、ツナマヨを作るためには、油を切っていないツナ缶に酢と卵黄を足せばいいことがわかる。インテリたるもの、やたらと油を捨てたり足したりなどという余計な手間は省き、効率的に生きるべきだ。
3.効率的ツナマヨ制作の実践
突然むき出しの生活感をお見せして恐縮だが、こちらがツナマヨの材料である。
理論上「ツナ缶から出た油を、酢と卵と混ぜてマヨネーズを作り、ツナ缶に戻す」ことでツナマヨが作れるはずなので、どんどん進めていこう。
これを、
こうして、
よく混ぜ合わせると、
マヨネーズに、なる筈だったんだけどなあ。
マヨネーズと呼ぶには明らかにゆるく「なんか薄ら酸っぱくてぬるぬるしたやつ」とでも呼ぶほかない、マヨネーズとは程遠いものになってしまった。実験は失敗である。
卵が常温に戻っていなかったとか、ツナ缶の油は煮汁を含んでいるとか、フォークではなく泡立て器を使うべきだったとか、原因は色々と考えられるが、ともかくも今回の方法ではマヨネーズが作れないことが判明した。
一応、この出来上がった「薄ら酸っぱくてぬるぬるしたやつ」をツナと玉ねぎにかけて食べてみたところ、味についてはあっさりとして中庸なドレッシング、という趣で悪くはなかったのだが、「上からマヨネーズかけて食いてえな」と思ったことを報告しておく。
実験の失敗は残念ではあるが、理論で説明できない失敗は常に新たな発見の前触れである。次に進もう。
4.革新的アプローチによる効率的ツナマヨ制作
気を取り直すべく「フリー素材の空」を用意したので、地味な写真続きで疲れた目を癒やして欲しい。
さて、気を取り直して。失敗したときは基本に立ち返り、改めてツナマヨ式を見直すことにする。
ツナマヨ = マグロ + 油 + 酢 + 卵
ここで先程は「マグロ + 油」をツナマヨとみなして話を進めたわけだが、この式は以下のようにも解釈できる。
【ツナマヨ = マグロ + マヨネーズ】
ツナ缶がマグロを油で煮た料理であることを考えると「マグロをマヨネーズで煮る」ことによって、より効率的にツナマヨができる筈だ。
マグロを
マヨネーズに埋めて
電子レンジで弱め(200w)に二分間加熱してみた。
するとどうだろう。
これは、
割とツナマヨではないか?
冷めるのを待って一口食べてみたところ、既存のツナマヨとおおむね遜色ない出来上がりであった。
加熱された油っぽいマグロの歯ざわりに、マヨネーズのコク。既知のツナマヨと全く同じとはいかないが、その差も「お店のチャーハンって、やっぱり自分で作るのとは違うよね」的な範疇に収まっているし、これが入ったおにぎりを食べたあとで中身について聞かれたら、10人中8人は「ツナマヨ」と答えるだろう。
むしろ、出来立てであるためかマグロとマヨネーズの味がそれぞれ濃く感じられ、こちらをより好む人も決して少なくないように思う。
5.革新的ツナマヨが内包する問題とその改善
さて、概ね満足いく仕上がりに見えるインテリ向けツナマヨであるが、改めて写真を見て頂くとわかるとおり、かなりの量の油が分離している。
底の黄色い液体は全て油である。
そもそも今回の試みが「ツナマヨを作る為に油を足したり引いたりする馬鹿っぽさ」の解消を目指すものであるからして、この「油が余っている」現状を見過ごすわけにはいかない。
理論的に正しい方法で作られた筈の今回のツナマヨではあるが、観測的事実は常に理論に勝る。この結果を式に表すと、こうなるだろう。
【マグロ + マヨネーズ = ツナマヨ + 油】
先ほどまでの理論と矛盾するようだが、観測的事実を真摯に受け止めて、次に進もう。
6.真に効率的なツナマヨの発見とその制作
さて、先程の式
【マグロ + マヨネーズ = ツナマヨ + 油】
をよく観察してみると、我々はある事に気づかされる。
まず、マヨネーズは油 + 酢 + 卵、であるからして
【マグロ + 油 + 酢 + 卵 = ツナマヨ + 油】
と書くことができる。
義務教育で学んだ通り、等式の両辺から同じものを引いても変わらず等式は成り立つので、両辺から油を引くと
【マグロ + 酢 + 卵 = ツナマヨ】
となる。
理論と実験的事実から導かれたこの式こそ、最も効率的なツナマヨのレシピである。
実際に作ると、こうだ。
「もずくを切らした日の一品料理」のようだが、ツナマヨである。
これがツナマヨだと言われて納得できる人はそう多くないだろうが、我々はこの非直感的な事実を受け入れなければならない。
「電車の中と外で時間の進み方が違う」と主張する相対性理論や、「壁に向かって投げたボールが、壁を通り抜ける」可能性を否定しない量子論。現代の科学は、いくつもの直感的でない理論によって成り立っているのだ。
7.終わりに
今回の実験によって、真に効率的なツナマヨの作り方を導くことができた。
【マグロ + 酢 + 卵】
これを読んだ貴方も、明日からこのレシピでツナマヨを作ることで、よりインテリらしく、効率的な暮らしを送ることができるだろう。
僕はインテリじゃないので普通に作ります。