chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

小さなアナログゲームを作ったときの話

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先の記事にもある通り、近頃「財布に入るアナログゲーム」として「This is why you lose coins」というゲームを作ったのですが、制作にあたって考えていたことなどを今後に備えてまとめておこうと思います。

全くゲーム制作経験のなかったchocoxinaが、ご覧の通りのごくごくささやかなゲームを作るに際し、何を考え、また何を考えそびれたのかの記録として、ご笑納下さい。

 

動機

まずもって、ゲームを作る意欲について「あらゆるゲームプレイヤーが一度は考えた程度」にしか持ち合わせていなかったchocoxinaが腰を上げるに至った動機がこのpostです。

 

 

その後秋山さんとの会話の中で、kickstarterで話題になったこんなゲームなんかの話をしつつ、頭の中で「どうにかゲームになりそう」だなというところまでまとまったのがこの案です

 

さすが小さいゲームだけあって、この時点で半分完成していたと言っていいような状態ですが、「コインがカードに完全に隠れることを求めている」「新しく置くコインが場のコインに触れることを求めている」という二点が最終版と異なります。

それはともかくとして、この時期にこのゲームについて考えていたことを下に箇条書きしてみましょう。

 

作るにあたり考えたこと:

・先のリンクのコインエイジのように「カードの上にコインを置く」のが少し手狭に感じられたので「コインの上にカード」のアプローチを考えた。

・また、同じくコインエイジと比べたときに、より現実的な量のコインでできそうなものを目指した。

・「場にあるコインと二点で接するように」としたのは、カードを置いたときにコインをズラしてしまった場合、場の再現が取れるようにするため。

 

吐き出した結果について、掘り下げてみようと思えた理由:

チキンレース的な趣きが出たので「チキンレースそのものの魅力」である程度の楽しさが担保されたと考えられた。

・「相手の手に合わせて、頭の中でカードの向きを変える」ような思考が生じるだろうと想像し、それが楽しそうだと感じた。

 

想像された欠点:

・カードのサイズを完璧に把握してしまったら、リプレイ性がかなり低くなるように感じられる。

・特別なコンポーネントをまったく必要とせず、いそいそと財布からコインとキャッシュカードを取り出してプレイするのは趣きがない。

 

とここまで考えたあたりで、頭でっかちになるのは悪い癖、とばかりに実際にコインを並べて考えてみます。

 

 

最初のテスト

やはり何事も実際に手を動かしてみないと分からないもので、ちょっとコインを並べてみた段階でいきなり問題が発生しました。 

それというのはキャッシュカードの大きさで、これが想像よりもずっとコインに対して小さく、全然自由にコインを置けない。

具体的には、

 ○○

○○○

 ○○

このように並べた時点で、使ったコインの大きさに関わらず必ずカードからはみだす程で、これではまったく自由度のない、最初のじゃんけんで勝敗が決まるレベルのゲームになるのは明らかでした。

 

おおもとの発想を尊重しながらゲームとして成立させるには「キャッシュカードよりも一回り大きな基準をもうける」ことが不可欠で、その為に「カードを二枚使う」などの案があり得た中、この時点でルールを若干変更しています。

 

 

コインに対するカードの起き方については、ここで現在のルールと同じところに落ち着きました。これによって副次的に「より目測が困難になる」ことが予想されたのは幸いで、最初に想定していた欠点であるリプレイ性の低さがいくらか解決されたと考えられました。

 

調整

その後、何度かテストとして一人回しをしてみました。

とはいっても一人では「ゲームとして成立するか」程度のテストしかできなかったので、やったことといえば「適当にコインを並べてみた上にカードが合法的に乗るかを予想して、的中率が高くなければゲームになるだろう」というレベルのテストくらいで、それでも何度かやってみて、まあゲームになるのは間違いなさそうだとは感じられたので、制作を継続する士気は保たれました。

 

ところでその段階で認識していた問題として「使うコインが多すぎる」というのがありました。

このルールでぎりぎりまでコインを配置すると20枚近いコインが必要となり、これは「999円を両替できない状態で持っている」場合の15枚すら超えていて明らかに多すぎたため、この時点でコインの配置規則を「新たに場に置くコインは、既にあるコインと一点でのみ接するように」と変更しています。

これにより「配置がズレたときに再現性を取る」能力が失われており、現在も配置ズレの問題については解消されていないため、ここでの決断がこのゲームに新たに一つ欠点を生じさせたといえますが、必要な決断だったと考えています。

これ以外に考えていた解決策として「カードの短編からはコインがはみ出してはいけないことにするなどして、目指す面積を狭くする」というのもあったのですが、後述するルールテキストの事情などを考えて採用しませんでした。

 

ベータテスト

この頃ちょうど、立川のペンタメローネさんのゲーム会があったので、お邪魔して隙間時間にテストプレイにお付き合い頂きました。

この時は、すぐ上に示したルールでプレイして頂き、感触としてはおおむね良好だったと感じました。

そのときに頂いたフィードバックとして「いろんな形、大きさのカードを作ってはどうか」というのがありまして、たいへん興味深かったのですが、最終的には採用していません。

採用を見送った直接の理由としてはまずコストの問題と「既存のカードを切り欠くかたちでバリエーションを作るとすると、カード裏にルールを書くスペースが狭まる」という、ゲーム外の事情が主な所です。

その代わり、そういった意見が出たことを「決まった大きさのカードを使うことによる、リプレイアビリティや実力差が出過ぎることへの不安」だと受け止め、なんとかそのイメージを払拭(実態として、イメージ以上に目測が困難であることは確信していたため)する方法を考えることを宿題としました。

 

最終ルール

先の記事で示している最終ルールでは、コインの配置について「場のどのコインとも接してはいけない」という、最初の案とは真逆のかたちを採用しています。

このかたちになった直接の理由は何と言っても「使うコインを減らす」ことだったのですが、採用にあたってはいくつか懸念がありました。

・コインを完全に離してしまうと、いよいよなんらかの事故でプレイ中のコインがズレたときに取り返しがつかなくなる

・手練れたプレイヤーが、初手でいきなり「カードの大きさスレスレ」の部分に配置するのを許すことになり、興が冷めるのではないか

一つ目はその他の要素のためなら諦めうるとして、当時僕がより深刻に問題だと感じていたのは二つ目の方でした。

結論としては「むしろそういった配置が許された方がずっと良かった」のですが、このとき僕は初期ルールからの流れで「だんだんコイン群が大きくなっていく」ことに面白さを感じていたフシがあり、そこに気づくことができませんでした。

なので「コインを適度に近づけさせるルール」として

 

こんなパターンも考えたのですが、あまりスマートでなかったのと「慣れてくれば適度に近づけた方が有利だと気づくだろう」という勘違いもあいまって結局採用することにしました。

 

本来であれば、こういった重大な変更を加えたあとにこそ、人を募ってテストプレイを行うべきだったのですが「そもそもがごく簡単な、ゲームとして成立してさえいればいいようなゲームであるので、身近な人たちにテストプレイでやり尽くされてしまうと困る」とか、「直後のミスボドに間に合わせたいけどそれまでにテストプレイの機会がない」とかいう助平心のため、この形を一応の完成とすることにしました。

 

コンポーネント(専用カード)をつくる

このゲームの構想段階から認識していた欠点として「特別な道具を必要としないため、プレイするときに情緒がない」というものがあったので、財布から取り出したときそれなりに映えるカードが必要だと感じ、ルールの調整と並行してカードの仕様について考えていました。

・印刷コストを考えてサイズは名刺大

・表面は「それだけでゲームの世界観の説明になるような」イラストとタイトル

・裏面はなるべく大きな文字サイズでルールを記載

という所まではすぐ構想できたのですが、そこまで纏めた結果「ゲームの世界設定とタイトルとアートワーク」について考える必要に気づかされます。

当初どうにか無いセンスを絞って考えたのは「コイン達がカードに隠れて財布から出ていく、というイラストに『お金がなくなる理由』みたいなタイトル」というもので、これはこれで実現できていたらなかなか趣き深かったと思うのですが、残念なことにchocoxinaには絵心が全くなく、それでも描いてみれば意外となんとかなるかもしれないという淡い期待を胸にノートに下書きをしてみた所で「イラストで世界観を表現するのは辞めた方がいいな」とすっぱり結論しました。

最終的なタイトルは"This is why you lose coins(こんな事してるから小銭無くすんだよ)"となっていますが、これは「何かゲーム世界的なものを表現するのは諦める代わりに、当初の案を踏まえながら皮肉でくすぐる要素を入れる」という妥協の産物です。

 

そこまで考えたら、表面は「タイトルをなんかおしゃれっぽいタイポグラフィ風に配置して画面を埋める」ことで完成です。

ちなみにこのとき、デザインの上下左右に余白を持たせることで、カードのサイズを少し小さく見誤らせる効果を狙っています。実際にプレイして頂くと「カードが予想以上に大きく、パスを宣言して負ける」ことが多いのを感じて頂けると思うのですが、どこまでがこの小細工によるものかは定かでないです。

 

裏面については、「出来上がったルールをどこまで少ない文字数で表現するか」が主なポイントだったのですが、そのために「場、山という概念をほぼ説明なしに示す」「相手の配置を咎める行為が『パス』という消極的な名前になる」などの欠点が生じていますね。

今となっては、もう少し分かりやすさに文字数を割いてもよかったと反省しています。

文字数制限はルールそのものにも影響を与えており、例えばひとの配置を咎める権利が常に直後手番にしかないデザインになっているのも「そうすることでその行為をパスと呼べる」というのが一因としてあります。もちろん「手練れた人の得点機会をいたずらに増やさない」ということも考慮してはいたのですが、そういううしろ暗い事情があった(他にも、席順で負けるゲームになる懸念があった)ので、先の記事に記した詳細なルールでは、選択ルールとして誰でも「チャレンジ(僕に直接フィードバックをくれる貴重な方から『パスよりチャレンジの方がいい』とお叱りを受けたことを踏まえた名前)」ができるルールも追加しています。

 

出来上がったデータは名刺屋さんに一番安いプラン(小ロット100枚が送料込みで500円未満!)で刷ってもらい、いよいよリリース(身内に配布するだけ)です。

 

 プレイして貰って

その後、ミスボドさんで顔見知りに片っ端から配ったり、そのついでにプレイしたりなどした感想としては、みなさん予想以上に名刺のサイズを見誤り、また最初からギリギリを攻められるルールも「初手から得点に絡める上に、チキンレースのヒヤヒヤ感を味わう機会が増える」というかなりいい方向に作用し、プレイして頂いた方の印象も悪くなかったように思います。

と言ってはみたものの、僕のいないメンバーでプレイされたのは確認できる限り二回程度、ネットでの言及もそのくらい、と、普及の具合としては配布の規模を鑑みてもいい結果とは言えないので、反省点もまとめておかなければなりません。それすらも(僕が今まで趣味にしてきたほとんどの創作活動でそうであったように)僕がネガティブなフィードバックを貰える域に達していないために、このゲームをよいものとして作った自分と同じ頭で独り考えてみるほかないのですが。

 

まずはルール文章のわかりにくさでしょうか。カードを手にとって頂いたときに一読してルールがわからなければ、そのまましまい込まれて財布のレシートと一緒に捨てられていてもおかしくなく、そういう点での配慮が足りなかったと感じています。

あとはわかりにくいといえばタイトルですかね。見栄えを重視した結果「話題にしにくいタイトル」になってしまったなあと思っています。

もう少し中身に踏み込んだ話をすれば、ルールを一読してみたときの「カードの大きさを覚えたらただの作業になる」というようなイメージを拭えなかったことも問題でした。実際やって貰えると、カードの大きさを覚えることは、丸いコインがランダムに配置された場の上ではそう簡単な話でないのが理解して頂けると思うのですが、それでも例えば「運ゲーのイメージを払拭できなかったパイレーツオブリベルタ」や、逆に「実態よりはるかに実力本位な印象を与えるブクブク」といったゲームに学んで、ルールの段階で疑念を抱かせないデザインというのもできたのかなと思います。なによりこの件に関しては、フィードバックを得ながら解決しきれていないのが痛い。

その他ルールの出来不出来については、そもそもプレイしてもらえるかどうかに関わる上記の問題に比べれば、些末な話だろうというのが現状の考えです。

 

感想

そんなわけで、こういう感じのことをつらつら考えながら、初めて小さな小さなゲームを作ってみたわけですが、今は「小さいゲームでも大変なのに、大きなゲームをつくるひとはもっと大変なのだろうなあ」とか「どんなに考えても、まずは手にとってもらわないと始まらないなあ」とか、他の創作をしたときと大差ない凡庸な感想を抱いています。

そういうことを乗り越えて来月頭のゲームマーケットに出展される方々には、ぜひ頑張って頂きたいですね。