chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

「ちょっとした無地の巾着」がどこにも売ってない

人生とはままならないものである。

夢は叶わないし恋は実らない、人と人とは分かり合えないし、探し物は見つからないのが常だ。

この前筆者がボードゲーム屋で中古品を見ていたところ、ゲームに必要な無地の巾着袋が一つ欠けている代わりに、かなり安くなった商品を見つけた。

巾着袋などどうとでもなるし相当にお得だ、と、購入した当時は思っていた。

まさかその「ちょっとした無地の巾着袋」が世の商店に全く見当たらないなどとは、つゆほども考えていなかったのだ。

これは「ちょっとした無地の巾着袋が欲しい」というささやかな夢を見た筆者の、あまりにも長く苦しい旅の記録である。

Day1.100円均一(ダイソー

100円くらいで売っていそうなものを買うために100均に行く、というのは、ごく自然な選択だろう。

というよりも、筆者が最初にダイソーに寄った際は、まさかこのような戦いが始まろうとは思ってもみなかった。巾着くらい「当然あるもの」と認識していたのだ。

しかし、ダイソーに売られていた巾着といえば、あるものは版権キャラクター柄、あるものはおしゃれなロゴ入り、またあるものはデパートの買い物袋を思わせるビニール製、といった具合で「ちょっとした無地のもの」はとうとう見つけることができなかった。

f:id:chocoxina:20191017135357j:plain ■最も地味なものでさえこの通りロゴがついていて、あまつさえその意匠が、インドア趣味の極致たるボードゲームにあまりにも似つかわしくない

そういえば昨年ごろだったか、ダイソーの開発担当だという女性に密着したテレビ番組を見たことがある。

子会社が試作した無難な商品に対して「これでは到底、お客様に100円お出しいただくことはできません!」とぴしゃりと言い放ち、よりこだわったものを作らせる光景が印象的だった。

しかし、無難な商品を探しにダイソーに来て、その願いがかなえられなかった今の筆者にしてみれば「よくも余計なことをしてくれたな」という気持ちだ。

100均らしいものが100均から排除されたら、いったいどこを探せばいいのだろうか。

思えば、100均はいつからか「プチプラ雑貨店」とでも言うべき雰囲気を帯び、若年女性を意識した品ぞろえにシフトしだした感があった。

化粧品を売る棚が日ごとに増え、容器という容器にカフェの黒板を思わせる模様が印刷され、あらゆる顧客の毎日をちょっとステキにしようと油断なく構えている。

おかげで以前、薬品を携帯するためにクリームケースを買いに行ったら、どれもこれもラメの入った夢カワ仕様になっており、ちっともかわいくない男性たる筆者は仕方なく、無印良品で倍近い値段のものを買うことになった。

100円以上の価値を求めてダイソーに来る若年女性もいれば、ただ80円くらいで売れそうなもの(それゆえ100均以外のどこに売っているか想像もしにくいもの)を買うためにダイソーに来る壮年男性もいるのだ。ゆめゆめ忘れないでほしい。

Day2.100円均一(キャン★ドゥ

この時はまだ「無地の巾着なんてものが、100均以外のどこに売っていようか」と考えていたので、別の100均ことキャン★ドゥに来た。

f:id:chocoxina:20191017132603j:plain ■むろんここも「巾着」といえばオシャレな柄モノが前提である

ダイソーに負けず劣らず「プチプラ雑貨店」的な100均となったキャン★ドゥではあるが、2件目となればこちらも対策を用意している。

巾着袋がただ巾着袋として売られている可能性は少ないのではないか、なにか特定のものを入れる「○○ケース」としてなら、理想に近いものが売られているのではないか、と考えたのだ。

しかしキャン★ドゥの品ぞろえは、イヤホンケースなら硬質、カバンの整理用なら透明、メガネケースならパカパカと開く特殊な口、と、どれ一つとして普通の袋がない。

f:id:chocoxina:20191017132637j:plain ■これは別の店(ドン・キホーテ)の写真だが、ちょっとイヤホンを入れておくだけの袋は生地が分厚く口金も特殊で、なかなかの値段がする

なんなんだお前たちは。創意工夫をするな。ただ無難でありさえすればいいのだ。

日本で「一億総活躍社会」などというお題目が唱えられ始めて久しいが、「100均の凝った袋」というのはそのあだ花ではないか。

なにかに特化しよう、活躍しよう、個性を発揮しよう、と考えるあまり、無難であることの価値が忘れられつつあるのではないか。

無難をこそ求める客、無難であればこそ輝く舞台というのがあるのだ。

ミープル(ボードゲームによく使われる人型の木製コマ)を入れる専用バッグを用意しないならば、せめて汎用的な巾着くらい用意しておいてほしい。

Day3.無印良品

もっとシンプルなものが欲しい、と考えたとき、人は無印良品へ行くよう運命づけられている。

記憶にあるかぎり、無地の巾着というのは往々にして生成りの綿のようなものでできており、まさに無印良品が得意とするところに思えた。

結論から言えば、無印良品には確かに「生成りの巾着」が存在した。

ただそれは

f:id:chocoxina:20191017135449j:plain ■2000円以上するエプロンの付属品

f:id:chocoxina:20191017132806j:plain ■500円のお菓子のおまけである上、妙なプリントのほどこされたもの

f:id:chocoxina:20191017132841j:plain ■無地ではあるが化学繊維製で、さらに「小さくたためる」という一生使わない付加価値のために結構な値段になっているもの

といった具合で、到底「ただ巾着が欲しい筆者」の欲求を満たすものではなかった。

なんなんだ本当に。

なぜそのエプロンを用意するついでに、巾着だけ売ることができないのか。

なぜたかがおまけにすぎない巾着に、余計な意匠を持たせるのか。

なぜいざ巾着を売ろうとなったときに「余計な一工夫」をほどこすのか。

俺はただ、適度な大きさで無地の巾着が欲しいだけなのだ。そう突飛な要求ではないだろう。

かつて「人並みの幸せ」と呼ばれたロールモデル現代日本で夢物語となりつつあるように、「無地の巾着が欲しい」というのはもやは過ぎたる願いとなったのだろうか。

Day4.ホームセンター

そこへ行けばどんな夢も叶うと言われながら、だれでもその場所を知っている現代のガンダーラがホームセンターである。

しかしすがるような気持ちで「島忠」を訪れた筆者に対して、現実はあくまで非情であった。

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ともすれば、このような感じで多様なサイズの巾着が並んでやいないかと期待したのだが……

ホームセンターの売り場は、鞄売り場なら鞄、ツールバッグ売り場ならツールバッグ、ビニール袋売り場ならビニール袋、という具合に整然としており、その中で筆者はとうとう「巾着がありそうな売り場」さえ見つけることができなかった。

思えば、巾着というのはあまりにも中途半端な存在である。

あらゆる用途の入れ物としてそれなりの役割をこなしながら、決して何かの専用にはなりえない。

筆者は巾着袋に、かつて通信簿で「器用貧乏」と評された自分自身を重ねた。

お前に居場所となる売り場がないならば、いわんや、俺には。

Day5.手芸用品店

ダイソーでおしゃれに装飾された巾着袋を見つけたとき、「お仕着せのかわいい雑貨を売るよりも、ユーザーにカスタマイズを任せるほうがいいのではないか」という思いがふと頭をよぎった。

かつて100均を使いこなしていた女性というのは、無難なグッズに自分の手でデコパージュをほどこしたり、スパンコールを縫い付けたり、そういった風に創意工夫してプチプラを楽しんでいたのではなかったか、と。そこにわざわざ店の方でかわいいグッズを用意して売ろうなどというのは、さながら金曜ロードショーが「バルス」を推奨するような無粋なのではないか、と。

そこまで考えたとき、手芸用品店ならば「デコレーションの下地としての無地の巾着」があるかもしれない、と直感したのだ。

その考えは、ある意味正解で、またある意味間違いだった。

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このように「無地のトートバッグ」が何種類もある一方で、無地の巾着だけはついぞ見つけることができなかったのだ。

手芸用品店であまたの布や糸、あるいは紐をかきわけながら巾着を探していると、「巾着くらいの小物は自分で縫え」と言われているようで心苦しかった。

家庭科の成績が5だった筆者にとって、布と紐から巾着袋を作ることくらい造作もないことではあるが、袋が必要になるたび針と糸とをちくちくやる、というのは避けたいところである(ほとんどの独居成人男性の家がそうであるように、筆者の家にはミシンがない)。

5年6年と飽きもせずボードゲームを趣味とし、これまで3桁に及ぶゲームを買った身として、今後どれほどの袋を縫うことになるのか、考えるだに恐ろしかった。

Day6.雑貨店(フライングタイガー)

北欧のこじゃれた雑貨を売る店であるところの「フライングタイガーコペンハーゲン」。

言うまでもなく「ちょっとした無地の巾着」なんてものとは最も縁遠い店である。

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f:id:chocoxina:20191017133205j:plain ■北欧では、全ての布がアッパーな意匠をまとって生まれてくる

ただ思うに、そもそも「雑貨」という言葉は本来「ちょっとした日用品」「小規模で分類しにくい産業」という意味だったはずだ。

それがいつの間にか「女性向け」の意味合いを帯びはじめ、こんにち雑貨屋といえば、当然かわいらしいグッズを売るものだと誰もが信じて疑わない。

そうなれば、まさに本来の意味で雑貨そのものであったところの「無地の巾着」を、我々はどこで買えばいいのだろうか。

筆者がこの店に来たとき、実は巾着を探しに来ていたわけではない。

もはやそれを買うことは諦め、どうにか楽に自作するべく、400円のハンディミシンを買いに来たのだ。

f:id:chocoxina:20191017134058j:plain ■ちなみにハンディミシンには入れ物として巾着袋がついているのだが、こちらも大概ゴキゲンなことになっている(画像出典:https://blog.jp.flyingtiger.com/

しかし今回の、筆者と巾着袋をめぐる戦いは、ここで思わぬ形の決着を迎えることになる。

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トラベルグッズの棚に売られていた携帯スリッパ。

この外袋が、無地で大きさも適度な、これこそが探し求めていた「ちょっとした巾着袋」そのものだったのだ。

筆者は150円で携帯スリッパを買い、中身をタンスにしまい込んで外袋にミープルを入れた。

どうにか遊べる状態となったゲームを眺めて安堵しつつも、さながら窮屈に折りたたまれたスリッパがもとの形に戻ろうとするように、胸の中でどこか腑に落ちない感情が大きくなるのを感じていた。

ジャーニー・ゴーズ・オン

ここまでが、筆者がささやかな夢を叶えるために経ることとなった旅程である。

ひとまず目当ての巾着を買うことはできたものの、今後巾着が必要になるたび家にスリッパが増えるような事態はなるべく避けたいし、今後も「安定して無地の巾着を買う方法」を探し続ける所存だ。

この日本が、無地の巾着や、無地の巾着のような我々にとって居場所のある、あたたかな社会になることを願ってやまない。

■ロットが大きいとはいえ、Amazonで検索したら一瞬で見つかった。なんなんだ。