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ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

自販機で買った金貨は、思わず粗末にしたくなる小ささ

一人暮らしを始めてしばらくしたころ、家に「梨」を買って帰った日のことをよく覚えている。

いつもは「スーパーの入り口でかごを拾い上げながら左手に構えるまでの一連の流れ」の中で通り過ぎてしまう果物売り場でふと足を停めたとき「そうか、果物を買ったっていいんだな」と天啓を受けたのだ。

その時買った梨は甘く瑞々しく、また人生に選択肢が増えた喜びも相まってひときわ美味く感じられたものだ。

さて、その手の気づきを久々に感じられたのが今年の秋頃のこと。

趣味で貨幣論について色々調べるなかで「金貨」のことを検索した折、検索結果に楽天へのリンクが並んでいるのを見て気づいたのだ。

「金貨って買えるんだな」

と。

フィクションや歴史上の存在だとばかり思っていた金貨だが、今でも投資対象として金を売るための「地金型金貨」というのが、毎年新たに発行され続けているとの事だった(他にもコレクターを対象にした「収集型金貨」というのもあるらしいが割愛)。

その後更に調べを進めたところ、東京には金貨を自販機で売る店があることや、大きさによっては我々プロレタリアートにも十分手の届く値段であることなどがわかった。いや、わかってしまった。

じゃあもう買えるじゃん、買おうかな、いざとなったら売れるんだし、というのが、本記事執筆に至る経緯である。

自販機で金貨を買う

金貨の自販機は、東京都は茅場町にある。 自販機とはいってもさすがに路上にポンと置かれているわけではなく、専門店の中に設置されている格好だ。

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■左から、スパ用品店、弁当屋、貴金属店、コンビニ、というなんだかすごい並び

コンビニの隣「金銀の貯金箱」さんに入るとすぐ左手に件の自販機があり

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おおむねタバコと同じ要領で金貨が並べられている。

これはぜったい普通の売り方ではないよな、とは思いつつも、考えてみれば筆者は、金貨というものが本来どのように売られるものなのかよく知らない。

ともかくもここに

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札を入れて

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ボタンを押すと

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金貨の入った箱が出てくるわけだ。

ひととおりの手続きが終わると、自販機の下部からちゃりんちゃりんとお釣りの出る音がして、思わず乾いた笑いが出た。

今まで、金貨を買うぞ、といううやうやしい気持ちをどうにか保っていたのに、その音によって「完全にジュースと一緒じゃねえか」と緊張の糸が切られたようだった。

あはは。金貨買っちゃったぞ。

ところで、さきほど見た自販機の中に「ゴールドバー」という商品があったのだが…

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■これ

考えてみればこれは「金の延べ棒」ではあるまいか。

この日もう少し財布に余裕があったなら、筆者は金貨のみならず金の延べ棒まで手にすることができたのだ。

金はすごい

さて、金貨をまじまじ眺めてみると、やはり美しい。

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■後述する事情のため、かなり寄りの写真で失礼します

いかにもこれはいいものだぞという光沢をたたえており、またその科学的性質ゆえに今後数百年はその輝きを損なわないだろう。

ごく最近まで、多くの貨幣制度における裏付けとして利用されてきたのもうなずける話だ。

金地金の相場が今のところだいたい1gあたり5500円くらいなのに対し、この金貨がほぼ1万円。

金の塊を1gに分けて、キレイなカタチにして、これは確かに純度99.99%の金ですよと保証してこの謎のケースに入れるために、金そのものと同じくらいの値段がかかっているわけだ。

いいものを買ったな、と思う。

確かに思うのだが、どうもこいつ、それだけでは済まない気持ちを筆者にもたらすのである。

いいものではあるのだが

ここまで色々褒めてはみたが、実はこの金貨を買った当日のうちに、筆者は家の中でこれを紛失しかけている。

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■そのときの様子

いきなり「成人男性の部屋の汚さのピーク」をお見せしてしまい恐縮だが、こうしてゴミやらなんやらの中に紛れてしまうと、さしもの金属光沢もその存在感を発揮することは難しい。

いかんせん小さすぎるのだ。

「金はグラム単価がめちゃめちゃ高い」「金は比重が重い」というそれぞれの事実は知識として知っていたが、「1万円の金貨は小指の爪くらいのサイズ」というのは正直想定しきれなかった。

なにせポケモン世代の筆者は「きんのたまは5000円」という強固なイメージをゲームフリーク社に植え付けられており、それゆえ1万円出せばもうすこし存在感のあるサイズのものが出てくるだろう、とどうしても期待してしまったのである。

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■同じ1gでも、アルミニウム製の一円玉と比べるとその差は歴然

この金貨、取り出して縦に摘んだら「ぐにっ」と曲がりそうだし、そもそもこのケースがなければあっという間に無くしてしまいそうな感じだ。

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■500円玉と一緒に並べてみると、もはやどちらがより価値のあるものなのかさっぱり分からない。

一応ケースに入っている分だけ無くしにくくなってはいるのだが、このケースは正直めちゃめちゃ高級感があるという感じでもなく、遠目には「レンタルビデオ屋の会員証」と大差ない。

またそもそも、自分がこれを自販機で買った、という事実が、どうしてもこう感慨の湧かなさというか、思い入れの入らなさに寄与している面もあるだろう。

金貨というのが本来どう買われるべきものなのかは分からないが、本当はもう少し勿体ぶった手続きを経て買われる物だったのではないか。そしたら、こちらにももう少し有り難みというか「大事にしよう」的な気持ちも湧いただろうというものである。

1gの金貨(しかも自販機で買ったやつ)というのは、美しくも粗末にしやすい、なかなかアンビバレントな存在だ。

むしろ積極的に粗末にしていく

自販機で買った金貨の「金貨だけどちゃちい」「小さいけど高級品」というアンビバレントについて、もうすこし深堀りしていこう。

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■なんとなく、クタクタの下着と一緒に部屋干ししてみた

わー、金貨をパンツと一緒にしちゃってるよ、というヒヤヒヤする事実と、そこまで衝撃のない見た目とのギャップがすごい。

「金貨ってあの金貨だろ」「でも金貨って感じの金貨じゃないしな」という、語彙力ゼロの逡巡が脳内を満たす。

ちょっと不謹慎なことをしているのかもしれないし、或いは客観的にはなんの面白みもない写真かもしれない。読者の皆様には「どちらか」にしか見えないだろうか、あるいは、どちらとも断言できない落ち着かなさを筆者と共有して頂けるだろうか?

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■トランプと一緒に輪ゴムで留められる金貨

ゲーム中にこの金貨が配られるよりも、エース2枚の方が嬉しい。

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■「大掃除直前のガスレンジ」の上で、小さめのタッパーに入れられる金貨

このまま食器棚の奥に入れておいたらへそくりとして成立しそうである。

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■デカビタの空き瓶感覚で自転車のカゴに入れられる金貨

自分の自転車がこうなっていたら、よく見ずに隣のカゴに金貨を捨ててしまうだろう(ゴミはゴミ箱に捨てましょう)。

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■ローソンで買った金貨

見た目の高級感でいえば、1万円のiTunesカードといい勝負である。

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■雨の団地に打ち捨てられる金貨

これまで金貨を見て「かわいそう」と思ったことありますか。

メリークリスマス・アンド・ア・ハッピーニューイヤー

なんだかんだ写真など撮っているうちに「買ったものをほとんど褒めていない」状態になってしまったが、「金貨を粗末にしたくなって、実際にする」というのはなかなかできることでもないし、その点ではまあ買ってよかったなと思う。

1万円出すだけの価値があるかは微妙なところだが、いざとなればそれなりの値段で売れるわけなので、そのあたりは深く考えないことにします。

それではみなさん良いお年を。

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■金貨は財布に入れることにしました。金は縁起物、という説もあるそうです。