かつて俺達にとってセブンティーンアイスの棒は勇者の剣だったし、大人はそれを具現化することができる
セブンティーンアイスが好きだ。
そのユニークな形とカラフルさは、ボウリング場やショッピングモールなど、幼少期の楽しい思い出と結びついている。
そこかしこにあるわけではない辺りが絶妙にありがたみを感じさせて、大人になった今も、自販機を見つける度ついつい小銭を入れてしまう。
とくに好きなのがこの形のアイスで、幼少期からチョコミントの味はもとより、その持ち手である棒の部分にも強く心惹かれた。
子供の手にちょうどよい長さと、アイスを支える円い土台。
小学生男子からすれば、食べ進めた先に「剣(つるぎ)」があると信じずにおれない形だった。
とはいえ実際のところ、この棒の先端は「剣」と呼ぶにはあまりにも短すぎる。
それでも筆者はセブンティーンアイスを食べるたび、この鍔の向こうに長く伸びる刀身を想像しながら、棒を振り回したものだった。
そう、ちょうどこんな風に――
――我と契りを結ぶか、定命の者。
何の声だ?
――「真白き依り代の剣」を掲げ、我を呼び覚ます者よ。今こそ共に戦おう。
――我が名はヴァニラゴン。剣に力を与え、主の器を量る者なり。
――残る十と六振の剣をその手に納め、「見定める十七の龍(セブンティーン・アイズ)」に己が強さを示さば、我らは龍が力を以て、あらゆる望みを叶えよう。
――さあ、我を手に、すべての剣士を倒すのだ。定命の者。
さて、ひとしきり遊んで満足したので、以降はこの「ヴァニラゴンの剣」を作って子供の頃の夢を叶える方法について、皆様に紹介しよう。
作業環境
剣の制作には、この3Dプリンターを使った。
3Dプリンターというと、カッターマットのような土台の上をノズルが縦横に走り、熱したプラスチックを盛り付けていくようなタイプ(熱溶解積層方式)を想像する方も多いかと思うが、今回筆者が購入したのは、それとは異なる光造形式と呼ばれるもの。
(一般に想像されるであろう3Dプリンターの例)
(今回使うものと同じ方式のもの。購入当時2万円ほど)
熱溶解積層方式と比べると、手のかかる素材しか扱えない代わりにより高精細に出力できる特徴があり、ここ数年でかなり安くなってきたらしい。
――などと知ったような口をきいているが、自分もフォロワーに教えてもらうまでこの方式の存在さえ知らなかったことを告白しよう。
いつか買おうと思って「あとで買う」に入れっぱなしの3Dプリンタです。ツイッター見る限りでは評判もよく、エントリーモデルとしてはよさそう。 https://t.co/5bew5sp6sv
— よーげ (@youges) 2021年6月16日
ともあれ、この機械に後述の方法で作ったデータを読み込ませると、
(ちょっと見にくいが)こんな感じで、黒い釣り天井からぶら下がるようにしてモデルが引き上げられてくる。
マシンの下に、紫外線で固まる液体(ネイルやアクセサリ作りに使うレジンのようなもの)が溜まっていて、その底からUVライトを当ててコンマ数ミリ厚の層を作り、それを何層も積み重ねて立体にするのだ。
3DCADを用いた刀身モデルデータの制作
さて、問題の3Dデータだが、基本的には3DCADと呼ばれるソフトで作っていくことになる。
有名なところだと「Fusion 360」というソフトウェアが、商用レベルの性能を備えながら、個人・非商用ならば無料で利用でき、日本語の情報も多く使いやすい。
https://www.autodesk.co.jp/products/fusion-360/overview?term=1-YEAR
作業手順としては、Adobe Illustratorみたいな感じで描いた図形を高さ方向に引き延ばしたり、別の図形でくりぬいたり、あるいは逆に組み合わせたりして目的とする形をつくっていく感じだ(粘土をこねるようにして作る機能もあるらしい)。
ところで、筆者がヴァニラゴンの剣を着想する前に作った剣がこちら。今回の一連の作業において「己の中の男子小学生を呼び覚まし、真にカッコイイ剣を思い描くこと」こそが一番の困難だったと付記しておこう。
もっとも一度呼び覚まされてしまえば、小学生の心は遠慮を知らないもので、本制作にあたっては、ついでに起こされた「中学生時代の筆者」との熾烈なプレゼン合戦がありました。
配布される3D素材の利用と再加工
さて、3DCADの操作をざっと習得し、さらに心の中の男子小学生との対話を済ませたところで、さきほどの刀身には「ドラゴン」が足りないと結論するに至った。
しかし、今の知識で画像をこねこねしながらドラゴンを作っても「かつての筆者」の欲求を満たすクオリティが出せそうにないため、ここは既製のデータを使うことにしよう。 3Dプリンター用のデータをアップロード・ダウンロードできるサイトはいくつかあるが、どうやら見た限り最大手はこのhttps://www.thingiverse.com/。
サイト内を"dragon"で検索して出てきた、こちらのかっこいいドラゴンを使わせていただく。
https://www.thingiverse.com/thing:27666
各データにはクリエイティブコモンズライセンスが表示されているので、商用利用や再配布の可否などを確認しつつダウンロードするのだが… このサイトにアップされているデータについては、しばしばアップロード者が著作権者とイコールでない場合があり、例えば今回のドラゴンの場合出典がスタンフォード大学のサイト(http://graphics.stanford.edu/data/3Dscanrep/)となっていたりするので注意が必要だ。
大学側が再配布を許可しているのが確認できたので今回はありがたく使わせていただいたが、このサイトではしばしば明らかに権利を持っていないユーザーが堂々と版権モノのデータをアップしていたりするので、扱いに十分気を付けてほしい。
ともあれこうして無事ドラゴンのデータをゲットできたわけだが、実は世に公開されている3Dプリント用のデータは.stlという形式で配布されており、これが見たところ後から編集することを想定していないものらしい。
さきほど紹介したFusion360でも、通常の方法では配布されたデータの編集ができないようだった。
3Dプリンターを購入した人はしばしば「自分でデータを作れなくても世の中にあるデータを印刷するだけで十分活用できる」と述べるが、そこからちょっと踏み込んでデータを自分用にアレンジする際にはこういった困難があることも覚えておくべきだろう。
ちなみにざっと調べたところ、Fusion360と同じ会社が公開しているhttps://tinkercad.comという子供向けのクラウドサービスでは、なぜか既存のデータに部品を組み合わせたり穴を開けたりといった作業がカンタンに行えることがわかり、
めでたくこうして、ドラゴンに剣の形の穴を空け、成形後に組み合わせられるよう改造することができた(ちなみに筆者は穴のサイズを剣とぴったり同じにしてしまったせいで、後でヤスリがけをして穴を拡げる必要に迫られました)。
プリント用データへの変換
さて、こうして作成したモデルをプリンターに読ませるには、いちど「スライサー」と呼ばれるソフトウェアで加工してやる必要がある。
このような感じで作業領域にそれぞれのデータを配置したり、適宜台座や支柱を補ったりといった作業ののち、3Dデータを無数の断面に分割して、プリンターが印刷しやすいようお膳立てをしてやるわけだ(右にある小さな板は今回の剣とは関係ない制作物の部品。高さの大きいデータは出力に時間がかかり、これなどは九時間近く必要になるので、なるべくいろいろ一度に印刷してしまいたいのだ)。
ちなみに筆者は無数の支柱がついたドラゴンを見て、「ザウスみたいだな」と思ったんですが、今の10~20代には通用しないらしいです(画像出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%89%E3%82%89%E3%81%BD%E3%83%BC%E3%81%A8%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%A0SSAWS)。
ともあれこんな感じに処理したデータをプリンターに読ませて数時間待てば、さきほど見たように、さながら釣り天井にぶらさがるような形で部品が出力される。
あとは支柱を取り除いて、しかるべき方法1で表面に残った液体レジンを洗浄したのち、UVライトを当てて完全に硬化させる「二次硬化」を行えば作業終了だ。
ここに至るまでには、記載の作業以外にも初期セットアップやテストプリントで機械や素材の機嫌をとったりする必要はなるが、それらを含めてもだいたいプリンター購入から1週間ほどで、あなたもドラゴンの付いたメチャクソにカッコイイ剣をセブンティーンアイスの棒に顕現させることができるはずだ。
さいごに
今回、文明の利器こと3Dプリンターを使うことによって、積年の夢を叶えることができた。
プリンターがあれば、こういったおもちゃを作る以外にも、特定の小物をぴったり納めるケースや、デスクの厚みに合わせたフックなどを簡単に作れるので、多少なりとも興味があればぜひ買ってしまうのをお勧めする。
記事中にはAmazonのアフィリエイトリンクを貼り付けているが、例えばこの代理店https://skhonpo.com/はサイト内に情報が充実していて頼りになりそうだし、こちらを頼るのもいいだろう。
ちなみにこうしている今も、筆者の中の男子小学生が「チャッカマンをライフル銃にしたやつ」を作れとうるさいので、いずれ当ブログでそちらをご紹介できる機会もあるかもしれない。
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主にイソプロピルアルコールなどを使う。筆者は水洗い可能な素材を使用しているが、それでも廃液は下水に流せず、やや手間がかかるため注意。↩