chocoxinaのover140

ハンドルは「ちょこざいな」と読ませている

みんな美容師に嘘をついている

美容室がことのほか苦手である。

理由はいろいろあるが、ともかく美容師さんとの会話が苦手なのだ。

キラキラとした美容師さんとのやりとりに抵抗を感じるあまり、なんとなく素の自分を見せたくないだとか、会話を手短に切り上げたいだとか、そういう気持ちが積み重なり、結果美容師さんに嘘をつくことさえある。

筆者はそのたびに後ろ暗い気持ちになっていたのだが、どうもインターネットを見る限り、美容師に嘘をつく人というのは珍しくないらしい。

そこで先日Twitter

このようなアンケートを取ったところ、思いのほか「美容師への嘘」の事例が集まったので紹介したい。

筆者のような「美容室を嫌いし者」にとっては一種のあるあるとして、そうでない人にとっては一種の物見遊山として、お楽しみ頂けるのではないかと思う。

美容師への嘘は4パターンに分けられる

頂いたご意見をチェックしていたところ、我々が美容師につく嘘は大きく四つのカテゴリに分けられることがわかった。

Type1.成り行き型

美容室というのは、客は客でぼんやりしながら雑誌など読んでいるし、美容師は美容師でつねに手を動かしているしで、会話の内容などもとより二の次となる環境だ。

そんななかで為されるトラッシュトークに、ちょっとした誤解や行き違いがあったとき、わざわざ訂正するのもおっくうでそのまま話を合わせる……という風に発生するのが成り行き型の嘘である。

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筆者は、趣味について聞かれてディスクゴルフ(いわゆるフリスビーで行うゴルフ様の競技。最近アメリカで流行り始めた)の話をした結果、おそらくフリスビーからの連想で犬を飼っていると思われてしまったため、友人宅の犬のエピソードを話してやり過ごしたことがあります。

この手の嘘は、自分について誤解されることをあまり気にしない、あるいはそれよりも訂正の手間の方が気になる、という、我々のような消極的な者たち(大きめの主語で失礼します)が最も得意とするタイプのものといえるだろう。

さて、この手の嘘はたいてい会話の労力を抑えるために為されるわけだが、ことの運び次第では訂正するよりも面倒なことになるため注意が必要だ。

もしこの後トレジャーハンターについて深掘りされたら、我々としてはインディージョーンズの話などをしてやり過ごすほかない。

この発言単体だとちょっと分かりにくいが、これは成り行き任せが過ぎて、なぜか普段の仕事とは全く違う「コピー機の営業」として話すことになってしまった人による苦悩の一コマ。 美容師との会話に抵抗がある人ならばこそ、どこかのタイミングで勇気を出して軌道修正をしないと、こういう余計な苦労をすることになるのだ。

Type2. 戦略型

さきほど紹介した「成り行き型」がパッシブな嘘だとすれば、この「戦略型」はアグレッシブな嘘。

相手の美容師さんから、望ましいリアクションを引き出すためにつかれる嘘だ。

筆者がもっとも多くつく嘘もこのタイプで、たいてい自宅も職場も、美容室から電車で30分くらいの場所だと言うことにしている(自宅や勤務先に近いのがバレると、通うことを期待されそうな気がするので…)

改めて情報を仕入れるためか、あるいはその話で間を持たせるためか、ともかくしたたかさが感じられる。

仕事のことは聞いてくれるな、という目的でつかれた嘘と思われる。 美容師と仕事の話をするくらいなら、いっそニートと思われてやる、という強い意思を感じる。美容師への敵意と言い換えてもいいだろう。

Type3. 見栄型

我々ことお洒落に自信なき者達(大きめの主語で失礼します)にとってみれば、美容室に行くことはすなわち不慣れなお洒落空間に飛び込むことでもある。

そんな場所で、お洒落を生業とする美容師に対して自身をさらけ出すのに抵抗を感じるとき、人はまた嘘をつくのである。

ブローもスタイリングもしない、と正直に言えば、美容師さんは恐らく洗いざらしでもある程度キレイに見えるような工夫をしてくれるのだろうが、我々はつい見栄を張ってしまう。

この嘘をつくことで、美容師さんは髪の伸びっぷりやスタイリングへの気合の入れ方を見誤るし、それは自分の損にもなる。そう分かっていても我々は、いま、この瞬間、この美容師さんに、お洒落に無頓着なつまらぬ人間だと思われたくないのだ。

ちなみに筆者は、がっちりスタイリングするとどうなるか見ておきたくて「これからデートなんです」という悲しい嘘をついたことがある。これは戦略型と見栄型の複合といえるだろう。

Type4. 社会型

美容師と客、という関係に限らず、ひろく人間社会でつかれているのと同じような嘘というのもある。

「あなたとわたし」が社会の最小単位だとするならば、美容師と客との間に社会の縮図が現れるのは、驚くべきことでもないのかも知れない。

大人になるにつれ、こういうときに使える汎用性の高い相槌ばかりが上手くなる。

海外のボードゲーム類を趣味とする人間が、会話の流れで人生ゲームを引き合いに出されるのは一種のあるあるなのだが、訓練されたギークならそのリアクションを無下にしたりはしない。どうにか話題に乗ろうとする相手の苦労は買ってしかるべきだからだ。

すべての嘘を許さぬ神がもし、我々を滅ぼすために降りてきたならば、僕はこのようなひとたちを守るために戦うだろう。

美容室は他の場所とちがって、適当に切り上げて距離をとる、という動きができないのが問題だ。ほんとうにお疲れ様です。

我々の嘘を、美容師さんはどう感じているのか

こうしてフォロワーにエピソードを聞いてみると、美容室で嘘をついているのは自分だけではないのだ、という安心感が得られた一方、かように嘘ばかりつかれている美容師さんのことが気になりもする。

外出しにくいこのご時世だが、久しぶりに美容室に行って伸び放題の髪を整えてもらいながら、美容師さんと話をしてみるのも悪くないかもしれない。

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そんなわけで中野のお店に来ました。

美容師さんは手際よく筆者の髪を切りながら、まずは自然な話題を切り出す。

――普段スタイリングとかされますか?

――最近できてませんねー。

最近、の定義にもよるが、かろうじて嘘はついていない。美容師さんはそんな僕を憐れむ様子もなくハサミを動かしながら、適度に他愛のない話題を振ってくれる。

――僕ら美容師はリモートできないんで大変なんですよー。

――リモートカット、できたら面白いんですけどね。手術ロボットみたいに。

思ったより滞りなく雑談できているのは、美容師のおにいさんがいい人だからか、あるいは筆者が人との会話に飢えていたからだろうか?

ともかくこの感じなら、あの事を聞き出せるかもしれない。

――そういえば、美容師さんに聞いてみたいことがあったんですけど。

――はい。

――普段こうやって、お客さんと世間話をしたりするじゃないですか。こういうとき僕の友達なんかは、仕事のこととか家のこととか、嘘ついちゃう人が多いみたいなんですけど。

――ほぉ。

――そういうのって、聞いててわかったりします?

――あー。たまに「不自然だな」と思うことはありますね。そういう時はそれとなく話題逸らしたりして。

――あはは、大人の気遣いだ。

――僕らとしても、嘘を暴いちゃって気まずくなったら困りますし。

我々はこれまで、嘘で美容師さんをうまくいなしているかのように錯覚していたが、実のところ、美容師さんたちの優しさに甘えていただけなのかもしれない。

今後はせめて、嘘をついてまで美容師さんとの会話を切り上げようとしたり、成り行きで嘘を強いられるような生返事を重ねたりといった無礼は控えるべきだな、と反省したところで、今回は筆を置かせていただきます。