平成の終わりに、らあめん花月嵐と向き合う
らあめん花月嵐をご存知だろうか。
平静初期、高円寺に1号店をオープンして大ブームを巻き起こし、とんこつ醤油とにんにく・背脂というスタイルのラーメンを東京に定着させたラーメンチェーンである。
今もなお日本全国に展開しているので、食べたことがあるという人も多いことだろう。
さて、ここで一つ読者に聞きたいのだが、みなさんはらあめん花月嵐がお好きだろうか?
――回答を待たずにあえて断言しよう。
このブログを見に来るような読者のうちのほとんどは、らあめん花月嵐に対して、なにか折り合いのつかない気持ち、ソリが合わない気持ち、好きだと言うのがはばかられるような気持ちを抱いているはずだ。
これがらあめん花月嵐だ
そもそもらあめん花月嵐に行ったことがない、という読者諸兄は、まずこちらの公式サイトを訪問し、2分ほど巡回していただきたい。
――いかがだっただろうか。
■「大人気」と自称してはばからないメニュー
■あまりにも先まで計画された期間限定ラーメンのスケジュール
ちょっと、なかなかほかに類を見ない感じのラーメン店だな、ということはおわかりいただけたのではないか。
総じて、このらあめん花月嵐という店は、眩しいばかりの自信に満ちている。
自社の限定商品とその広告塔タレントについて「数々の伝説を巻き起こした最強タッグ」と形容するラーメン店は、世界広しといえどもらあめん花月嵐くらいのものだろう。
筆者は、このらあめん花月嵐からあふれ出る自信を、近頃大変うらやましく感じるようになった。
これは、何等の皮肉や嫌味を企図したものではない。
らあめん花月嵐と同じ時期に生まれた筆者は、元号の変わる令和元年に齢30となる。
筆者が、キャリアパス、人生設計、貯金、スキル、そういったものもののことを考えながらうつむいている間にも、らあめん花月嵐は新作ラーメンを発表し、さまざまな芸能人とコラボし、熱狂的な花月嵐ファンの存在を信じて疑わず、時に筆者のようなひねくれ者から向けられる冷笑を気にも留めず、30年近くもあのやり方で事業を継続してきたのだ。
3年以内に9割つぶれるとも言われる飲食業界で、これほど長きにわたりラーメンを売り続けるのは並大抵のことではない(環七の名店こと「なんでんかんでん」でさえ一度潰れている)。
あの過剰とも思える自信と自尊とで修飾された宣伝文句も、かような実態を伴ったものと考えれば、途端に頼もしく見えてくるというものだ。
■そうはいってもさすがに気圧されるほどのアピールではあるが
筆者は、らあめん花月嵐のことをもっと知りたいと思ったし、そのためにはらあめん花月嵐の実店舗で「嵐げんこつらあめん」を食うほかないと考えた。
土地勘のない場所で適当に夕食をとるためや、飲み会の帰りに適当に腹を満たすためではなく、純粋にラーメンを味わうためにらあめん花月嵐に行くのだ。
嵐げんこつらあめんを食う
調べてみると、筆者の行動圏内だけでらあめん花月嵐は4店舗もあった。
■今回来たのは中野坂上店
普段、いかにこの店のことを気に留めていなかったのか、反省を禁じ得ない。
■食券機の様子。今回は確認できなかったが、時期によっては「裏メニュー」と称する料理群が堂々と並んでいることもあった。
■語感を重視しすぎて、蝶野正洋氏が一回もラーメン食べたことないみたいになってるポスター
■水さえこの調子で推されるのがらあめん花月嵐という店だ
内装の一つひとつが、今俺はらあめん花月嵐にいるのだぞ、と感じさせてくれる。
いつからだったか、座席にはメニューと一緒に「はい!私が店長です」という一種の読み物が置かれるようになった。
店長の人となりやおすすめのメニューが書かれたペライチの紙で、曰く「待ち時間がちょっと楽しくなる情報誌」とのことだ。 「ちょっと」という謙虚さは一見らあめん花月嵐に似つかわしくないようにも感じるが、
中身を見ると「ああ、花月の読み物だな」ということが十全に感じられる。
また特筆すべきこととして、らあめん花月嵐はおおむねどの店舗も掃除が行き届いており非常に清潔である。
思い返せば、らあめん花月嵐に来て、店のせいで多少なりとも嫌な気分になったことというのは、実は一度もなかったのではないか。
(各種の情報にあてられて勝手にスカした気持ちになったことは、まあ正直何度かあったが)
そうこうしている間にラーメンが届いた。
嵐げんこつらあめん味噌(定番の醤油味と間違えて頼んだのだが、大した問題ではない)に、餃子とチャーシューごはんのセットだ。 今日はらあめん花月嵐をとことん味わい尽くしてやろうという日であるから、炭水化物を被らせることに何の躊躇もない。
腕まくりののち、さあ、と一口食べてみて驚いた。
なんというか、ちゃんと旨いのだ。
もちろん、花月のラーメンは工場で大量生産されるものであろうから「今朝砕いた豚骨を、さっきまで煮込んでました」というような情報量の多さはない。
ただ、とんこつ、背脂、にんにく、味噌、コショウの鋭い味が「こういうもの」を求めている脳にビシビシと刺さってくるのを感じる。
ここでしか食えない味、積極的に食べにくる理由のある味だ。
卓上に備え付けの壺ニラもやし(画像左下。ニラともやしに辛味をつけたもので、例のごとく各所で猛烈にプッシュされている)をスープに浮かせ、細麺でからめとるようにしてむさぼり食う。
店内放送が「ラーメン、エンタメ、サプライズ!」の決め台詞とともに次回作ラーメンの告知をする声も、不思議と気分を高揚させてくれる。
結構な量を頼んだはずだが気づけば完食。スープまで飲み干している自分に気づいて、少し苦笑いをした。
らあめん花月嵐を認め、らあめん花月嵐のようになろう
率直に言えば、筆者はこれまでらあめん花月嵐に対してかなり斜に構えていた。
筆者が普段相当にひねくれている、ということを差し引いても、あの店には、なかなか真正面から受けとめにくい「勢い」がある。
しかし、元号が平成から令和にかわるこの時期、筆者もまたあの店を見習って変わっていかねばならないと思った。
まずは今後、折にふれて「らあめん花月嵐、結構いいよね」と、はばからず口にしていこうと思うのだ。
そしてゆくゆくは、花月の大人気コンテンツのように、自分に絶対の自信を持ち、忌憚なく公表できる度胸を身に着けたい。
……いや、あそこまでじゃなくてもいいかな。
■自動ドアの店内側に貼られていたもの。意外とこういう細やかなところがあるのだ